今日も今日とてなだらかな日常が過ぎる。円堂くんが居なくなってから、もうかれこれ5日経とうとしている。
周囲では一抹の寂しさを拭い切れぬまま、それでも悲しみは見えない振りをして曖昧に通常を取り戻した。結局何も変わらないのだ。彼1人居なくなった所で。
時間の流れとは偉大で、残酷だ。人にたくさんの思いを刻みつけた彼ですら、その存在は時が過ぎればこうも儚く消えてゆく。なら、私だったなら?そうしたら幾日「保った」のだろう?
カリカリと前方で先生が黒板に板書している。クラスメイト達がそれをノートへと書き写し、静かな教室にはチョークとシャープペンシルの走る音だけやけに響いていた。
私はふと窓の外に広がる空を見上げた。斑模様のような雲が空一面に広がっている。巻積雲だ。秋に美しい姿を見せる、一般に鱗雲や鰯雲等呼ばれる雲。形が崩れやすく、姿を長くは留めないことの多い貴重な雲である。人の存在然り、巻積雲然り、美しいモノは必ず儚いものなのかもしれない。

『…私が…』

今頃彼女は心を苛まれて居るのだろうか。私が蒔いた不安の種を知らず知らずにその優しい心で育てているに違いない。そうしてまた、怖くなる。
こんな私を知ったら円堂くんはなんて思うのだろう。海に沈む直前の、あの言葉がやたらめったらに頭を走る。
蜩が夏の終わりに縋りつく。今日の彼等の声量は、昨日の半分程度にしか感じられなかった。
彼等と同じく、季節の狭間でここから去った円堂くんを惜しむように、その歌が空へ昇っていく。
円堂くんは何がしたかったのだろう。もう叶わないけれど、もしここに居たら何をしていたのだろう。
「もし、円堂くんがここに居たのなら。」そんな言葉を吐く資格が果たして私にあるのだろうか。少女を平然と苦しめる私に、その資格はあるのだろうか。
それでも考えてしまう。「もし、円堂くんが居たとしたら、私は何をしていたのだろうか。」
海に沈みゆく彼を阻み、荒れ狂う海から助け出していたら。きっと泣いて泣いて、それから?
それからどうした?
何を眺め、何を感じ、何を考えて。今、この瞬間と私はどう違ったのか。
円堂くんの居ない世界で、私はどう生きていくのか。


考えて考えた木曜日

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