授業を終えた私は昨日と同じく病院へ向かい、彼女を連れ出した。幸い彼女の容態はここのところ割と安定しているらしく、簡単に看護士の許可が下りた。放課後の雷門中へ向かう。
風丸くんがみんなに言い聞かせて、サッカー部の活動を再開させたのだ。そして私は、彼女にサッカー部の活動を見せたかった。

「学校に来るのなんて数ヶ月ぶり…」

校門をくぐる彼女は物珍しげに辺りを見回す。私も倣って周りを見たけれど、サッカーコートにいつも居る彼の姿が見当たらず、目を伏せた。

「あれがサッカー部?」

彼女の声が私を呼ぶから、仕方なく私は目を開ける。そこに立ち並ぶのは見たくない現実ばかりで、円堂くんが居なければ何もないのと同じだ。酸素が無いと呼吸出来ないように、円堂くんが居ないと見ていられない。そんな世界。

「そう…あれが、円堂くんのチーム。」

彼女が知らない円堂くんを、誇るかの如くゆっくりと言った。だが円堂くんが居る事で輝いていたその輝きは失せている。今はモノクロに近い。

「…私が…」

彼女の呟きは風に流され散り散りになってうまく聞き取れない。唯一聞き取れた主語とそれに続く接続語では、呟きの内容を計り知るには材料が少なすぎた。
それでも彼女が言った言葉が私には分かる。私が、言わせたのだから。

「もう少し近くで見ようか?」

「えっ…ううん、止めておくよ。」

泣きそうになりながら笑う彼女は確かに美しくて、私の方こそ泣きそうになった。適わないから、だからどうしても辛くあたってしまう。悪いのは全面的に私なのに。

「せっかく学校に来たのに?」

「うん…連れてきてくれてありがとう、おなまえちゃん。」

「…いいえ。」

傷口なんて誰も触られたくはない。不意に触ったとしても、故意に触ったとしても、必ず痛むのだから。

「また、会いに来てくれるかな?」

そうしてこの世界は終わりを迎え始める。


傷口に触れた2人

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