夏の茹だるような暑さも和らいだ今。目覚ましにに起こされた私は寝汗がかなり少なくなった濡れたパジャマを脱ぎ捨てる。軽くシャワーを浴び、制服を着込んだ。
それから、まだかまだかと水を待ち望む曼珠沙華へ水をやった。嬉しそうに土に染み込んだ水を飲む曼珠沙華。そのくせまだ私を責める。

『お前のせいだ』

「分かったよもう。」

曼珠沙華はそれきりそっぽを向いた。私は曼珠沙華の置いてある小さなテラスから離れる。ジョウロを置いた。
彼岸も過ぎると空は綺麗なうろこ雲を湛え、風もひんやりと冷たくなる。季節は坂を転げ落ちるかのように秋から冬へと向かうのだ。
そんな頃には決まって私は風邪を引いて、昔は円堂くんや風丸くんがお見舞いをしてくれた。熱っぽくてほわほわした意識でも、2人が来てくれると凄く嬉しかったのを覚えている。

『よくお見舞いに来てくれたの。お花とか持って、色々なお話を聞かせてくれたよ。』

だからとでも言おうか。彼女が円堂くんにどれほどの気持ちを抱いていたのかはよく分かる。出来るなら分かりたくはなかったけれど。でもどっちにしたって円堂くんはもう居ない。
曼珠沙華が葉を鳴らした。

『そのはな、きれいだな!』

子供故の無垢さからだろう。円堂くんも、かつてこの花を誉めた。母さんや父さんは気味悪そうに見るばかりだったのに、円堂くんがそう言ってくれたお陰で曼珠沙華も誇らしそうに見えてしまう。
この前咲き出したこの曼珠沙華は1つだけつけたつぼみを大切そうにゆっくり開花させてゆく。まだ満開まで後少しといったところだ。こんなにゆっくりと、まるで見せつけるかのように咲くのは初めてだった。いつもいつの間にか咲いていて、気がつけば萎んでいる。それが今年は妙にもったいつけて、そのくせ大きく危うげだ。
円堂くんは何を想いながら海に沈んでいったんだろう。またあの映像がチラつく。曼珠沙華が振り向いた気がして、私は窓を見た。

「おなまえ、早く準備して下りてきなさい。遅刻するよ。」

母さんの声が邪魔をするから、曼珠沙華はまるでその辺の花のように私を意識しなくなった。
仕方がないので私は部屋を出る。最後の抵抗の意味をもたせて、曼珠沙華に「行ってきます」と声を掛けた。


前を向く為の水曜日

TOP


×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -