葬儀を終えた式場から出て、少女の背を追った。人混みに紛れた細い腕を掴む。

「あの、」

たくさんの人が辺りを通り過ぎて行くけれど、誰も私を、私達を気にしてはいなかった。
振り返った彼女は不安そうに私を見る。赤く腫れている目元から泣きはらした様子が窺えた。頬は青白く、げっそりとしている。

「…ちょっとだけお話を聞いてもいいかな。私、おなまえっていうんだけど。」

名前を名乗れば大概の人は大なり小なり警戒心を和らげる。彼女は控え目に頷きながら、けれどふと式場の外に目線を向けた。式場の出入口に程近い道路に、式場に横付けするかのように停められた黒い車だ。恐らく彼女の家のものだろう。

「どうして円堂くんと知り合ったのか、知りたいなと思って。」

「ごめんね、でも私早く帰らなくちゃいけないの。もしよければ明日…病院で、じゃ駄目かな?」

病室の番号を唱える彼女に了承を伝えた。今にも泣きそうな彼女が必死に気丈に振る舞う様は、どうにも儚くて美しい。綺麗な黒髪が日の光を反射する。
私が掴んでいた手を放せば、彼女はお辞儀をして急ぎ足に車へ向かう。

「あ、待って。」

これだけは今尋ねておきたい、そう思って声を出せば彼女は割とすぐに振り向いてくれた。丸く大きめな瞳が2つ、私を伺う。

「どうして、円堂くんは海になんか行って溺れたんだと思う?」

それを聞いた彼女は目を丸くして驚いて、じわじわと涙で瞳を潤ませた。
彼女が目を反らす。

「…分からないよ。…どうして円堂くんが死ななければならなかったんだろう…。」

絞り出した答えを捨て置くように、彼女は私に背を向けて駆け出した。
私は何も出来なかった。ただただ彼女の背を見つめ、彼女が居なくなった後もずっと式場の前で立ち尽くしていた。
分からなかった。今のが正しい私の行動なのか。私は今から何をすればいいのか。分からなかった。
いつまでそうしているんだと風丸くんが私の肩を叩くまで、私は立ち尽くした。


昨日の少女を思い出す

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