錆びた金属が擦れたと喚く。私と風丸くんはそれに何の反応も見せず、静かにブランコに座っていた。
ブランコに足を揃えて座り、チェーンを握りしめる風丸くん。その姿は少し幼い頃の彼にリンクして、一瞬風丸くんが‘一郎太’になる。しかし瞬きするとすぐにその幻想は消えてなくなった。きっと円堂くんが居なくなったから、私はどうかしてしまったのだ。
時刻はもう商店街で烏が鳴き出す時間だ。早く帰って夕刻に溶けるような曼珠沙華の花を見たい私だけれど、その為に約束を破る程愚かではない。泣きやむまで手を握っているのだ。
今風丸くんは、そりゃあまあここが公園だという事も相俟って泣いてはいない。けれど心では暴風雨よろしく感情の嵐だ。風丸くんに直接尋ねた訳でないが間違っちゃいないだろう。彼は仮にも‘一郎太’その人なのだから。
だから私も、本当には触れてはいないが心では彼と強く手を繋いでいるつもりだ。こればっかりは私の自己満足な部分なので、2人の共通理解として片付ける事は出来ない。
私は先程から何度も何度も振り回して、ブランコに前後運動を強要していた足を止めた。耳障りだった甲高い音が止まる。横に並んだ風丸くんの顔を窺った。

「ねぇ、風丸くん。」

声色をどうこうしようとまでは考えなかった。だがどうやら私の声は葬儀後には不自然な明るさを持っていたらしい。耳に伝わった声が案外いつも通りで自分が一番驚いた。平気なんじゃなくて無理をしてるんだ、そう思い込む事にした。
私へ振り返った風丸くんを見つめる。オレンジ色の瞳が暗くて怖い。だけどしっかりと私の話に耳を傾けてくれていた。

「どうして円堂くんは海になんか行って、溺れたんだと思う?」

本日2度目となるこの疑問を投げかけた。風丸くんは‘円堂くん’という単語に反応してか顔を歪ませる。
チェーンを握る手が震えているのを、私にはとても見逃す勇気がなかった。

「…さあ、分からないな。」

風丸くんが俯く。長く美しいその髪が顔を隠し、私には窺うことの出来ないようにする。

「何で…海に…っ」

どうして円堂くんが海に行ったのか。
誰もその答えを口にしてくれる人はいないだろう。風丸くんは知らない。母さんも知らない。曼珠沙華にでも尋ねてみようか。

「私のせいかな?」

それはさすがに風丸くんには尋ねられなかった。だってそれを訊いてしまっては、海に行った理由を知っている事までを話さなくてはならなくなってしまうから。ボロを出さずに話せる自信は、今の私にはまだない。

「サッカー部、当分練習休みなんだってね。」

「ああ。…みんな、まだ受け入れられないんだ」

受け入れられない、って泣いてるの?いい加減誰か気づいてほしい。

「練習、再開したら見学に行かせてよ。」

「おなまえ?」

「サッカーを見せたい人が居るの。雷門の、サッカーを。」

円堂くんが愛したサッカーを。


焼けつく気持ちを早く棄てて

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