円堂くんの通夜は、通夜らしく湿っぽく、そしてどんより暗かった。円堂くんがいつも放っていたあの明るさの片鱗も見当たらない。場の雰囲気に飲み込まれながら、私は呆然と立ち尽くす。
風丸くんが泣いていた。いいや、風丸くんだけじゃあない。木野さんも、半田くんも、染岡くんも、雷門さんまで、皆々泣いていた。
私には、泣ける訳がなかった。円堂くんの通夜をぼんやり眺めていると、あの温かな表情、言葉、声、優しさ…円堂くんの全てを思い出す。しかしいざ涙が涙腺から出ていこうとすると、昨日みた最後の円堂くんの姿が浮かんできて、私の涙は引っ込んでしまう。
そんなわけない、あの子が、そんなわけない。所々で聞こえる円堂くんの死を否定する言葉。死した今を否定することは、まるで生きていた過去を否定するようで美しく感じられない。この暗い雰囲気に曼珠沙華の華やかさを持ち込みたかった。

「風丸くん。」

「おなまえ…俺、信じられないんだ。円堂が、円堂が…っ」

「……。」

風丸くんは何も分かっちゃいなかった。涙を流すこと、その意味を。皆そうなのだろうか。この場で涙を流す人々は皆、分かっていないのだろうか。
涙を流すという行為は、円堂くんが居なくなって悲しいという感情から生まれる。しかしその感情が生まれた時点で、その人は円堂くんの死を受け入れた事になる。信じられないなら、涙だって流れないのだ。
ぐだぐだ考える間にも風丸くんは涙を流していた。私はそんな彼が少し可哀想に感じられて、昔ながらに名前で呼んでくれた風丸くんに右手を伸ばした。
首を傾げた風丸くんへとはにかむ。

「手、握ってて良いよ。泣きやむまで。」

風丸くんは目を丸くして、そして笑った。泣き笑いだ。

「お前は強いんだな。」

私は何も言わなかった。


人間臭さを感じて1日が終わる


そんなわけないでしょ。それは言わなかった。
本当は私が誰かに触れていたかっただけなのだ。そうでもしないと、円堂くんのように見える範囲で‘居なくなって’しまいそうだと思ったから。自分の恐怖を紛らわせるが為に大義名分をつけ、さも風丸くんを思いやったかのように見せただけ。自分にしてはなんて人間臭い言い分なんだろう。だけど本当に、それだけだった。


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