船は無残に爆発し、海に消えてゆく。その様子をぼうっと見ていた雷門一同だったが、連れ出した佐久間が呻きながら口にした言葉に衝撃が走る。今し方ヘリから降り立った鬼道は特に血相を変えた。

「真帝国に、まだ、おなまえが…」

佐久間の弱々しい声を耳に、鬼道が慌てて海へと振り返る。しかし崩れた潜水艦の残骸以外見当たらない水面に文字通り脱力し、その場にへたり込んだ。
雷門一同から鬼道の名を呼ぶ声がかかっても、彼にはそれらが聞こえない。

「…おなまえ…っ」

彼女が悪なのか、そうでないのかは分からない。その群集の中で一番彼女を知り得ている鬼道ですら決めかねた問題だ。親子という不確定な絆に操られる少女と捉えるか、はたまたマッドサイエンティストと捉えるかは人それぞれだろう。
だが、崩れた潜水艦の中に居たというその人は、善悪以前に鬼道の大切な人だ。可哀相な人だ。
もしも彼女の姓が今のそれでなかったら、鬼道と彼女は出会ってはいなかった。それでも2人出会えたその姓が原因で2人は共に歩めない。彼女にとって唯一無二の存在、親。鬼道にとって唯一無二の存在、敵。それが不幸にもシンクロしてしまった。それが全ての矛盾の始まりだった。
鬼道が力の抜けた拳を握り直す。強く強い咆哮が、さざめく水面を掠めた。

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