私が言い出した提案を、静かに頷きながら聞いてくれる。パパと似た安心感は、きっと吉良さんに注す影が醸し出すんだ。

「ほう…リミット、ですか。」

「はい。人間の本能と言っても過言ではないでしょう。それを麻痺させれば、今まで抑えていた力を発揮する事が可能になります。…言うなれば、安全地帯から飛び出して戦場に加勢するような感じでしょうか?勿論リスクは有りますが、その分得られるものも有ります。」

また頷く吉良さんに一物を差し出した。瓶に詰まった錠剤だ。

「精力増進させる薬です。また、感覚を麻痺させる効果があり、本能的な思考を鈍らせる筈でもあります。まだ実験はしていませんが…、計算上はリミットを超えられる筈です。」

吉良さんが私の手から瓶を受け取った。しげしげとその茶色の瓶を見つめ、小さく振る。中で雪崩た錠剤が瓶の側壁に当たり高い音を響かせた。

「実験してみましょう。ついてきて下さい。」

待ちきれない様子で吉良さんは腰掛けていた板から立ち上がる。室内にある昔ながらの日本家屋に有るような縁側の作りだが、先も言ったように室内だ。いくら天井が高くとも、いくら木々が生い茂っていようとも、ここは縁側とは違う。偽物ばかりだ。

「…危険、ですよ?」

「えぇ。ですが得られるものも有るのでしょう?」

吉良さんの目は少年の様に輝いていた。これではどちらがサイエンティストか分からない。

「…行きましょう。」

私も立ち上がって吉良さんを促す。また鬼道くんの敵を強くするのかと思うと苦しくて、だけど嬉しくて、研究の結果も私がしてきたマネジメントの成果も全てが鬼道くんの阻みとなるのを知りながら、それでいて状況を楽しむ私が居た。

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