私は吉良さんというおじさんに拾われた。ふらふらと歩いていた所に声を掛けられたんだ。まさに‘拾われた’って感じ。
吉良さんは私の事を知っていたみたい。私の力が欲しいって。力を買われたなんて、素直に嬉しい。
パパぐらいだったから。今まで私を誉めてくれた人なんて。うぅん、鬼道くんも。鬼道くんと、パパ。2人しか私を認めてくれなかった。それもそうだよ。だって私はほとんどずっと暗い帝国の一室に籠ってばかりいたんだもの。パパと鬼道くんくらいしか「知らない」「興味も無い」。
「あなたの好きにしてください。」
「ここ、全部をですか?」
吉良さんが私にくれたのは帝国のそれより更に一回り大きな部屋。部屋の大きさが問題なのではない、この、充実した品の数々だ。
「えぇ…あなたの最高を目指すスタンスは私が求めるものなのですよ。だから私は、出来る限りあなたを手伝いましょう。」
私はやりたいように出来て、しかも結果を吉良さんが用意したモルモットで実験出来る。なんて恵まれた環境なの?
「ありがとうございます」
「期待していますよ」
そう言った吉良さんの背後から、秘書らしい剣崎という男の人が何やら耳打ちをした。剣崎さんの話を聞き終わった吉良さんが更に目を細める。
「…そうですか。雷門イレブン…、利用価値は有りそうですね。」
不敵に笑う吉良さんの表情。
また敵ね。
心密かに彼を想った。
彼の道に茨の種を蒔いてばかり。そんな私は、もうどんな形であれ彼と交わりたくはない。
結果的に、苦しむのだから。
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