私はずっとずっと好きだった××××を止めた。
それで良い。だって私は彼を支えるのだから。
心の底からそう思っている筈だった。私とて腹を据えて、ちゃんと考えた。

「おなまえ、お前…」

「これで良いんだよ。」

私の手に握られた××××の遺物とも言えるそれ。ボロボロになったそれを見て、鬼道くんは驚きつつ私を伺った。

「私はこれから全身全霊で君を支える。だからもうこんなもの、要らない。」

要らないんだ。頭の中で復唱した。
投げ捨てたそれを見送り、鬼道くんが悲しげな表情をする。
彼は言った。勝ち続けなければならないと。
パパは言った。そのために私が必要だと。
栄養バランス、カロリー摂取量から運動量、練習メニューにちょっと科学的な分野まで。パパが全てを私に仕込んだのは、この為か。

「大丈夫、私に任せて。こう見えてもちゃんとマネジメントは出来るんだから。」

「だがそれではおなまえが、」

「鬼道くん。」

生半可な気持ちなんて、止めてほしい。

「私は鬼道くんが大好きだよ。不安を抱えていた時、まるでお兄ちゃんみたいに優しい鬼道くんが好きになった。だから、鬼道くんをマネジメント出来るなら私はもう良いの。これは私の望みなの。」

床に落ち、無惨な姿を晒すそれを見やった。今の私にとっては要らない物が転がっているだけ。ただ、それだけ。

「おなまえ…すまない…」

「謝らないでよ、私はやりたい事をしてるだけなんだってば。」

へへ、と頬を掻いた。掻いた人差し指に温かいそれが止まり、通過して落ちる。

「すまない…」

尚も謝り続ける鬼道くん。
××××なんて嫌いだ。だって鬼道くんをこんなに悲しそうにするんだもん。××××なんて、××××なんて、

「鬼道くん…」

鼻を啜った。
もう、捨てたんだ。後戻りは出来ない。
必要無い訳ない。嫌いな訳ない。ずっとずっと好きで、でも鬼道くんの為だから、パパの頼みだから、捨てる。鬼道くんを支える為なら捨てられた。
けれど忘れたり、嫌いになったりなんて出来ない。未練はそれこそ山の様にある。でも捨てた。もうどっちにしろ私には無い。現実は冷たいけど、どうでも良かった。

「‘勝ち続けていてね。’」

私は彼に鎖を取り付ける。
いずれ彼の足を絡ませると知りながら、私は彼の足に鎖を巻く。
これは××××を失った私の、ただのしがない八つ当たり。

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