気がつくと酷く落ち込んでいた俺は、幼なじみである秋に事の経緯を話していた。今、一人きりだと折れてしまいそうで。不安、だったんだ。秋の包み込むような優しさに甘えた。
「そんなことが…」
隣で深く頷く秋に救われる。ひとりとふたりはこんなにも違うのか…。
俺はおなまえの幸せを、考えられなかった。
おなまえにとっての幸せは、富や権力や名声なんかじゃなく、ただ、隣に居る人。支えてくれる人。
「…。」
素朴な幸せを願う少女をひとり置いてきてしまった。ダメな、俺。
どうしてこうも自分という人間はダメな生き物なのだろう。自分の事ばかり考えていて、おなまえの苦しみに気づかなかった。助けられなかった。
「一之瀬くん!」
急な大声に驚く。目の前で秋が瞳を輝かせていた。
「私に任せて!…一之瀬くんは、とにかくななしのさんに謝ってね。」
それから…と彼女がもったいをつける。
「良く寝て、心配かけさせないでよね!」
走り去る少女は、昔からよく知っている背中を見せていた。
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