『っもしもし!』

久しぶりに聞いた一之瀬の声に、少しだけ涙腺がぐらついた。電話の向こうから聞こえる喧噪に2人の距離感を感じる。

「あ、の、…久しぶり。」

何を言ったら良いのか頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉が思うように出てこない。とにかく声が震えないように頑張った。

『久しぶり…おなまえ。』

名前を呼ばれた事で更にぎゅっと胸を絞られるような感覚になる。
そっか、彼はもう遠くに居るんだ。
テレビで見る度に背景が変わる彼。鹿と一緒だったり、雪山の前だったり。
それは彼の健闘と、彼のチームの前進が現れていて、嬉しくて、切ない。
彼が遠のくのをまた身に染みて思った。

「私…」

『なんや?誰からの電話?』

電波の向こうで聞こえたのは、知らない女の子の声。
え、誰…?
胸がざわついた。

『そんなんえぇからうちとまたお好み焼き食べようや。ほら、な?』

『いや、今電話中だから』

『えぇから、な?』

『あ、ちょっと…』

『ほなごめんなー。彼うちとお好み焼き食べるから。後でにしてな』

「えっ」

一方的に切られた着信に、私の世界は黒く染まった。

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