幼い頃から、私とアツヤくんと士郎くんは、毎日一緒に遊んでいた。アツヤくんと士郎くんは正反対の兄弟で、私は快活でヤンチャなアツヤくんの温かな手が、私の手を引いてくれるのが大好きだった。アツヤくんと居ると毎日が楽しくて、アツヤくんと士郎くんとの時間は私にとって何より大切だった。
 ーーだから、
 だから、あの日。アツヤくんの家族が乗る車が雪崩に飲み込まれ、士郎くんだけを残して遠くへ行ってしまった時、私は人生で初めて絶望を味わった。アツヤくんと過ごした時間の分だけ、たくさんの時間を泣いて過ごした。アツヤくんに会いたい、その悲痛な叫びが、きっともっと辛いはずの士郎くんを追い詰めたんだと思う。
 いつしか士郎くんの中に、アツヤくんの人格が生まれた。それははじめ、彼等の通っていたサッカーのジュニアチームでの試合中に出現した。エースストライカーとして活躍していたアツヤくんがそのまま乗り移ったかのような俊敏な動きに、観戦していた私も含め皆が釘付けになった。それから次第に、恐らく私の我儘のせいで……アツヤくんは、私との会話中にも出てくるようになった。最初の頃は二言三言話すだけだったけれど、それは次第に長い間居てくれるようになった。そうして私と士郎くん、それからアツヤくんの、歪な三角関係は生まれた。

 時は流れ、士郎くんは中学2年生になった。士郎くんはアツヤくんに比べ、言葉遣いが丁寧で優しい性格をしていたから、学校中の女子からモテているようだった。幼馴染の私は士郎くんとよく一緒に居たから、友達からは羨ましがられた。けれど私は士郎くんと一緒に居る時間の殆どをアツヤくんと会話していたから、きっと彼女達の思う時間ではないのだろう。アツヤくんは相変わらず少し乱暴な物言いだったけど、以前より私の存在を大切にしてくれているようだった。
 そんなある日、一台のバスが雪原を越えてやって来た。「宇宙最強」を目指す彼等は、士郎くんの力が必要だと言った。それはどこかで遠い地の話だと思っていた「宇宙人による侵略」に対抗するため、サッカーを通して力を証明しようと旅をするキャラバンだった。
「僕、行ってくるよ。……おなまえちゃん、待っててくれる?」
 士郎くんが申し訳なさそうに言った。それは私にとってアツヤくんとの別れだった。けれどあの時と違い、また会える別れのはずだった。だから私は頷いて、士郎くんを安心させようと笑った。
「大丈夫。頑張ってきてね。士郎くんとアツヤくんなら、宇宙人にも勝てるよ。」
 士郎くんは私の手を握って、少しだけ……名残惜しそうにその手を見つめていた。自惚れかもしれないが、家族を亡くした士郎くんにとって、きっと私はかけがえのない存在だったのだろう。私はその期待に応えようと、優しくその手を両手で包んだ。
「大丈夫、大丈夫…。ずっと見守ってるよ。」
 それが、私達の別れだった。

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