自室のベッドに腰かけ窓の外の冷たい雨を見つめていた。激しく降っている訳ではないのに、今日の雨は冷たくて寂しい。先程まではそう感じなかったのだから、要は気の持ちようなんだろう。降り続く雨は勝手な解釈で歪められる。
ドアをノックする音が聞こえた。私は立ち上がる気になれず、「どうぞ」とそつない声を出す。躊躇いがちに開いたドアの向こうで、一之瀬が笑った。
「今、いいかな?」
無理をしているような声。私は一度目を伏せた。
「別に構わないわ。」
一之瀬は後ろ手にドアを閉めると、私の隣に少し距離をとって座った。そして暫し考えた末に口を開く。
「ごめん。」
説明はいらなかった。私は「いい」と返す。すると悲しげな声が「ごめん。」と繰り返した。
「全部話すよ。」
「…1つだけで良いわ。」
「え?」
「話の前に、1つだけ。聞きたい事があるの。」
私が一之瀬に向き直ると、一之瀬も佇まいを直す素振りを見せてから頷いた。
「木野さんに話したの?」
一度絶句でもするような表情をした。それからやや下を向いて苦笑いした。
「話せなかった、って感じかな。ただ、秋はおなまえに頼るようにってだけ言ってた。俺も正論だと思った。」
そう言った一之瀬はもう一度、「バカでごめん」と呟いた。
私は彼が嘘を言っているようには見えなかった。一之瀬の目を見ながら呟くように言う。
「迎えに来てくれたから、いい。」
私は薄く笑った。
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