秋と会ってみても状況は何も変わらなかった。いざ秋を前にしてみれば、怪我の話なんて切り出せる雰囲気でない。なにより秋は今ジャパンのマネージャーで、ユニコーンの選手の心配なんてするべきではない。

「一之瀬くん…」

秋の声が何かを感じてか揺れた。俺はそれきりまっすぐ秋の表情も見れなくなって、少し目を逸らした。

「円堂達は元気?ユニコーンでは俺も土門もおなまえも、みんな元気だよ。」

いつもはなんて事ない、「元気」という単語が妙に羨ましかった。秋からの返事はなく、そっと秋の表情を伺うと、感傷的とも言える顔で雨粒を見ている。
幼い頃、あの事故にあう前の事だ。俺は秋が好きだった。嫌いになった訳じゃない。ただ、事故にあって、俺は一時的にでも走れなくなった。それを秋と土門に同情されたり、悲しまれたりしたくなくて死んだことにしてほしいなんて無茶苦茶な事を言ってしまった。1人でリハビリをする中で、その事を何度も何度も後悔した。そして2人は自分を忘れるだろうという事も覚悟した。
秋を好きだった気持ちも、その時に掠れてしまったんだと思う。その気持ちが大きければ大きい程俺は辛くなってしまう。だから逃げた。そう、逃げたんだ。

「一之瀬くん、辛い事があったんなら、私よりななしのさんに頼った方が良いと思うよ。もちろんどうしてもななしのさんに言えないなら、私だって頼ってくれていいけど。」

正論を吐いた秋は控えめに笑顔を見せる。俺はこの笑顔から逃げた過去がある、そう思ったら、繰り返してはいけないと心が言う。秋の言葉に頷いた。

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