最近の一之瀬はどこか不自然。今まで煩いくらいに私に話しかけてきたというのに、ここ数日はそんな会話すらまともになかったかもしれない。今日の練習中に目が合った時なんか、引きつった笑顔で私を見ていた。理由はわからない。
何かしたかしら。いいえ、何もしていないはずだわ。ではどうして?それとも、私の考えすぎ?
土門さんに聞いてみようか、なんて考えたりはするものの、土門さんから一之瀬が何かに悩んでいるのを聞かされたりなんてしたら私はますますどうして良いかわからなくなりそう。どうして私に相談してくれないの、と落ち込むのは目に見えている。
だから、怖いから、尋ねない。けれど無知は更なる恐怖を生む。ああ、どうしたらいいの。
マネージメントの仕事を終え、時計を見ると良い子はもう寝る時間。私は入浴を済ませ、部屋着に着替えて階段を上った。
合宿所の最上階には屋上がある。そこは広く洗濯物を干せるようなスペースがあり、常に開放されていた。見晴らしが極端に良い訳ではないが、こんな夜には星でも見られるだろう。
ドアノブを押すと髪が踊った。冷たい空気がいっぱいに満たされていて、それは不意に口をついた。

「だから、きっと、迎えに来て。」

いつかの続きだ。近頃遠退いていたあの人の歌が、私にそっと身を寄せる。

「いつまでも待ってるから、」

優しいメロディが惑わせる。夜の静寂が、夜の喧騒が、惑わせる。街の明かりを下に見て、笑った。

「きっと。」

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テーマ「人外ファンタジー」
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