「俺、アメリカに行くよ。」
実に何ヵ月振りに彼にそう言われた時、私は少し泣きそうになった。だけど彼は笑って続けた。
「これは俺のワガママだけど、出来ればおなまえにもついてきてほしい。」
「一之瀬…?」
「舞台は世界だ。おなまえにも支えてほしい。ううん、おなまえに支えてほしい。」
駄目かな、なんて言いながら彼は手を差し出す。私は彼の手を見て、顔を見て、そしてまた手を見た。
断る理由などない。引き留められるものもない。彼の手を取らない訳がない。
「…仕方ないわね、ついていってあげる。」
「おなまえ…っ!」
差し出された手を握ると、そのまま腕を引かれて彼の腕の中に収まった。不思議と嫌な気持ちはなくて、そっと彼の背に腕を回す。
「しっかりしなさいよ。」
私が支えてあげるんだから、と呟いた。
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