昨日の話である。星が降る夜なんて表現、今まで私は理解出来なかった。けれど今は違う。確かに、こんな星空は降ってくるのではないか、とそんな気持ちになる。
サンダルの隙間を縫って細かい砂が足に触れた。さざめく潮騒はまるでいつかの海のようで、潜水艦のハッチの上で聞いている気分にさせてくれる。どこの海も変わらないのだろう。夜になれば、静かにもなる。
私は、少し向こうの波打ち際にキラリと光る何かが落ちている事に気がついた。本当に星が落ちてきたのかな、なんて淡い気持ちに頬が緩む。星も降るなら、きっと何でも叶えられる。
それは500ミリリットルサイズのペットボトルだった。時折キラリと光るのは灯台の灯りを反射していたらしい。ゴミ1つないこの観光用の砂浜でそれだけ落ちているのはどうにも奇妙だ。ラベルの無いこのペットボトルは、ゴミではなく、そういうオブジェにすら見えた。
私はそのペットボトルを拾い上げた。中に、細く丸まった紙が入っている。固く閉められた蓋を回し、ペットボトルを逆さにして紙を取り出す。かなりつっかえながらも、紙は私の手に乗った。
そんなに古いものでもない。小さな文字で綴られたその文は、他愛もない呼びかけだった。

『どこかの誰かさんへ。誰かの手にこの手紙が届く事を信じてます。私はあなたのお陰で真実と向き合えました。私はあなたのお陰で嘘なんかじゃない幸せと出会えました。だから、あなたも、あなたも逃げたりなんかしないで下さい。もう遅いかもしれないけれど、でも逃げては駄目なんです。私はそれを教わりました。幸せに。』

何だか私とは無関係でない気がして、ペットボトルを月に透かす。キラキラと光るペットボトルは本当の光を映し出していた。

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