めでたしめでたし
「おい、電話うるさい…」

鳴り止まない着信音に起こされて訴えたベッドの隣で。

「うん…あと50分…」

「ご、強欲にも程があるな…!」

寝惚けた奴が布団に潜って声を出すから甲斐甲斐しくも探し当てた音源を止めて。

「なんだ、メールかよも〜」

「おー…なんだって?」

読んで、と言われるままに眺めた文字を追ってる内に目が覚めた。

「ハッピーバースデー」

奢ってやるから近々飯でも行こうの誘いに便乗する形で一応俺も、おめでとうは今朝言った。

うーだか、うんだか唸った奴は笑ってたけど、半分以上寝てたから記憶にあるかは怪しい。

誕生日、知らなかった。


去年の今頃既にもう、この家に居た筈だけどその時はどうしてたんだっけ?

なんて20数年前の今日、生まれた奴をせわしい社会へ送り出した後でひとり思いを馳せても。

どうもこうも知らなかったのだから、まあ普通にスルーしてたんだろうけど懸念の種はそこじゃない。

り…理不尽に殴ったり、罵倒を浴びせてなかったことを切に祈るしかない…

大体、言わないあいつが悪いんじゃないかと軽々しく責任を転嫁して。

誕生日、と打ったPC画面の検索予測を前に早くも心を砕かれていた。

「プレゼント、ケーキ、サプライズ…」

金が掛かるものは無理だ。あと時間も。何せ当日なので。

それでも気の利く器用な奴なら何とかなるのかもしれないが。

冷静に考えれば考えるほど俺に出来ることなんて何もない気がしてきた。

…もしかしたらあいつは、それが分かってて去年言わなかったのかもしれない。

知れず緩やかに落ち込んでいるのに気付いて余計に滅入ったまま。

ぐるぐる悩んで洗濯したりテレビ観たり頼まれた買い物に行ったりしてる間に。



「…おまえが、帰ってきたから」

特に何も出来ないのだと。

夕食を終えた食卓で少し、俯いたアカイトが眉を寄せるのに面を食らった。

深刻に告げられた言葉から状況を理解するのに、数度瞬く時間を要した所為で。

「いや待て、待って」

水分を纏いだした深紅の瞳に慌てて向かいへ手のひらを翳す。

「あのなー…そうやって一日、俺のこと思ってくれたってのが…」

めちゃくちゃ嬉しいんだけど?と続けた声が震えた。これはやばい。不可抗力でにやける。

去年の今頃、彼を迎えたばかりの俺には想像もつかないだろうが。

1年後には確かな未来が待っているから返事が無くてもめげずに話し掛けたらいいと思う。

どうしたって緩む口元を覆って感慨に耽ってる間に、でも、と上がる不満そうな声音。

「そんなの…別に、今日だけじゃない」

普段と違う何かじゃないと意味が無いとか、半ベソを顰めた子より先に俺が泣いた。


end
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