雷雨の来由
「ただい」

「マスター…!!」

語尾を取られて驚くより早く飛び込んできた身体に跳ねる水滴。雨の匂い。


「カ…カイトばかおまえ…」

咄嗟に身を引いたところで離れるつもりは無いらしく。

こちらの腰へと頑なに回された腕によって、ふんだんに水分を含んだシャツが素肌に貼り付く。

その不快さは着実にカイトへだって及んでいるのに。

「あ〜もーほら、おまえも濡」

とりあえず室内に上がろうと促すつもりで再度、触れた肩がびくりと跳ねた。

空の彼方、ドラム缶でも蹴飛ばすような余韻に次いで地を打つ雨音。

もっと早く帰ってくれば良かった、なんて。

腕の中で震える身体に気づいてようやく悟った状況に、後悔しても遅いが。経験は今後に活かせる。

「なんだおまえ…雷駄目だっけ?」

「うう…っ」

やっと上げたカイトの顔が予想以上に大惨事で、悪いとは思ったけどちょっと笑った。

ドアを隔てた雨足と劣らず溢れる涙の粒が、転がるように落ちていく。

濡れて火照ったその頬を包んだ両手で拭う傍から、ぽつりと滴る雫は雨粒。

日中は初夏の日差しに相応しく暑いくらいに晴れていたのに。

「急に降ってくるから…もー」

傘無いし焦った、と濡れた髪を掻き上げて漏らした嘆息が引き金にでもなったのか。

「あせ…っ焦ったのは俺、ですよー!」

「えっ」

「なんで…なんで帰ってきたんですか?」

震えた声音。責めるような響きに戸惑うこちらを余所に。

「こんな…まだ鳴ってるときに道歩くなんて…」

青い瞳は依然涙に濡れたまま、逆八の字眉のカイトに瞬く。

「こういうときはまず近くの建物に避難し…マスターっ」

「あ、はい」

「わら、笑い事じゃないです、よ…!」

「うん」

切々と訴えられる事案に思わず吹いた玄関先で落ちる雷。

腕の中の雷雨が一刻も早く止むのを願って濡れた目元へ口付けた。


end
[歌へ戻る]

×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -