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「俺が…至らないばっかりに…」
夜空を覆う暗雲よりもどんよりと落ちた声音に小さく笑って。
カイト用のココアにはマシュマロを3つ浮かべた。
数日前まで殺人的な気温が続いていたのに、今夜は急に肌寒い。
週末にかけて言葉通り怪しかった雲行きは、梅雨前線によるもので。
今日も一日、降ったり止んだりはっきりしない曇天だった。
雨の多いこの時期に年に一度の逢瀬があって、しかも雨天中止らしい。
逸話の男女は不幸というか不憫というか、やっぱりどこか星の巡りが悪いのだろう。
晴天を祈ってカイトが吊るした人形が、ひっくり返って雨乞いになってた所為では無いと思うが。
てるてる坊主の効力と七夕の伝説を信じてる子に掛ける言葉を迷ってはいた。
この分じゃ来年の今頃は、カイトの為にも晴れますようになんて願いを笹の葉に吊るしかねない。
自分用の珈琲にウィスキーを混ぜて、巡らせていた思案の滑稽さに自嘲した。
七夕に限らず、大抵の年間行事を素通りしてきた所為で幾つか、終わりを迎えた関係があった筈なのに。
いつの間にか随分と感化されている。
「なんだ、止んだじゃねぇか」
向かったリビング、窓際で、眺めた夜空は晴れては無いが雨でも無かった。
「でも…曇ってますよ」
「その方がいいよ」
不思議そうな青い瞳が、手渡したマグカップを見つめて甘く柔らぐ。その瞬間が好きだ。
「もし俺がすっげー久しぶりにカイトに会うとしたら」
まあ間違いなく泣くと思う。
人目に晒されるよりは雲陰で密やかに会いたいと。
告げて腰を下ろした隣で、眉を下げたカイトがやっと笑った。
「それは…俺も泣いちゃいます」
「なー泣いちゃうよな」
俺が無関心だったのは、行事やイベントごとではなく。
それらを大事に思う相手の心情、延いては恋人自身だったのだろう。上手くいかない筈だった。
「あっじゃあさっきの雨はもしかして」
ぱっと閃いた顔に笑って鼻先を寄せる。
「あー鼻水かもな降ってたの」
「…もーマスターはどうしてそう直ぐ」
続く苦笑を塞いで呑んだついでの勢いで、押し倒した拍子に掠めたカップの中身が。
見る間に零れて淡色のラグに染込む。地味な悲劇に後々嘆く程度の平和な夜だが。
件の二人も同じくらいの平和さで過ごしていればいいなと思った。
end
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