マスタS/マスカイ
「おい、夕飯どうする?」

食ってく?と声を掛けて数秒。

寝転がったまま返事がない友人の足をくすぐったこたつの中でガンっと鈍い音がした。

「…今のぜったい皿割れたからな膝の」

まじかよ。そうならそんな悠長に寝惚けた声は出せないと思うが。

「ごめんて、でも寝んな」

風邪引いても知らないぞって小言に、今日なに?と返される。

「何って、ああ飯?決めてないけど」

家に材料があって、俺が作れて、カイトも食べられるやつならリクエストを聞いてやってもいい。

借りがあるからなーと笑えば当然だとでも言うように寝る体勢に入りやがる。

「抱き枕は?俺の」

「アカイトならカイトとキッチン」

「えー」

だから寝んなって。ふたりが珈琲淹れてくれてるから起きろ。

「おまえ…こたつ好きなら買えばいいのに」

「…うちに置いたら寝具になるだろ」

「あーそれ、前も言ってたよな」

俺はてっきりアカイトのことだと思ってたんだが。

「あと…俺んとこ寄って来れなくなるから」

「…なに、アカイト?」

「んー」

要するに、寒いからってくっついてくる口実を奪いたくないらしいが。

いくらこたつが無くたって暖房器具は他にあるのだから寒いも何もない。


「あって無いような口実だと思うんだけどなぁ」

飯作ってくるから起こしとけって任せはしたが恐らくミイラ取りはミイラ、いや抱き枕になったに違いない。

物音ひとつしないリビングへ視線を流すとエプロンを付けた子が隣で笑った。

「俺は他にもあると思います」

「なになに理由?」

「たとえば、うちに来る口実とか」

立てた人差し指を唇に寄せたカイトがぱちりと片目を瞑ったりする。スマホ!

なんで手元にないんだ絶対撮ったのに今の。あとでもう一回やってもらうしかない。

って、いやそうじゃなく。いやそれもあるけどなんだって?

「うちに来るというか、マスターに会いに?」

「…ええー」

そんなことに理由が必要…なんだろうなぁと思ったら溜め息が出た。

別に、飯くらいいつだって作る。来たいときに来ればいい。

話があるなら聞くし、なにか困ったときは頼ればいいが。

そう言って素直に頷く奴でもないし、貸借の天秤を水平に保ちたいのは知っている。

律儀なやつ、と苦笑した隣で、ふふふとカイトが笑った。


end
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