4人
「どうしてもだめ?」

好きな人にはやっぱりいつも笑ってほしいと思うのだから、
こちらの首肯一つで見られる機会をむざむざ逃すことなんて。

「〜…っだめ、だめです」

あ…っぶない。危なかった。
寸でのところで耐えた理性が破った欲心に手を振って。

別れを惜しむ気持ちで視線を向ければ、見事に残念そうな顔したマスター。

「う、ぐ…っ」

「そうか…なら、仕方ないな」

「そ、その顔やめてくださ…」

いや、本音を言うともうすこし、もうすこしだけ見たい。ちょ、写真撮…っあ、でもこれ罪悪感凄いな…!

「なんで駄目なの?趣味じゃないとか?」

「まさか」

俺の内紛をよそに、こたつの二辺を占めるふたりは至って平和だ。

蜜柑を剥いてたアカイトのマスターが促す答えを否定したのは俺ではなく。

彼の隣で雛鳥よろしく口を開けてただけのアカイトだった。

「もしそうでもカイトなら着るだろ」

「だよなぁ」

「え。ちょっと待て、えっカイト」

「ちが、違いますマスター違います」

貴方の見立てはいつも素敵なものですし、俺に似合うと笑ってくれるのなら。

それほど嬉しいことはない。ないのだけど。

俺を潤す幾つかでマスターの何かがもしも不自由になるとしたら?

それだけは絶対に嫌だって話で、ほかに理由なんてない。

悪戯に話の矛先を変えないで欲しいと念じて見つめた思いは通じたのかどうか。

順に目が合った隣人ふたりは何やら神妙に小さく頷く。

「この蜜柑甘いなぁ」

「うまい」

「…それは」

良かったですと俺も頷くほかなかったし、たくさん食べなさいと笑ったマスターの声音こそ甘いと思った。

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