やきもきやきもち
「よく来たな!」

いいから上がれよ、暑かっただろとか。

家主の俺を押し退けて、来客を歓迎したのはアカイトだった。

たった今まで、暑い怠い死ぬを繰り返しては床に転がってた奴とは思えない変わり身の早さだ。

「おー元気そうだな」

訪れたばかりの彼がそう捉えても仕方ない。

けれど実態を知ってる身としては面白くないことこの上ない。これじゃあ、まるで…

「メイトが来たからなー」

懸念より早くご本人自ら仰って下さった事実に思わず顔を顰めていたらしく。

目聡く気付いたメイトが笑った。相変わらずだとでも言いたいのだろう。

「なんだよ、早く上がれば?」

「ああ、お邪魔します」

「ほんとになー!」

「おまえ清々しいほど素直だよな」

「うっせ」

笑い出したメイトにスリッパを投げて渡した廊下の先から、
何やってんだ早く来いとか浮かれきったアカイトの声音が飛んだ。


メイトと初めて会ったのは近所の大型スーパーだ。お互い夕飯の買出しだった。

珍しさに近付いて声を掛けたのは俺の方。
住んでる場所、多忙そうなマスターの話、果ては今夜の献立まで聞いた。天ぷらだった。

うちにはアカイトが居ること、ここから家が近いこと、俺は揚げ物下手なこと。

暇ならいつでも遊びに来いと、言った俺に会えたら確実に、回し蹴りを極めるのに。

いつの間にかアカイトは、彼に懐ききっていた。

「どうする?何飲む?ビールか?冷えてるけど」

それはもう甲斐甲斐しく接待する程度には。

いや、はしゃいでるアカイトは可愛い。
憎からず思ってる相手が嬉しそうな姿は俺だって嬉しい。

もしも今、あの日に戻ったとしても、やっぱり俺はメイトに声を掛けるし家にも呼ぶと思う。

別に、現状を後悔してるわけじゃないんだ。

「まー至れり尽くせりですね!」

ただすごく、ものすごく悔しいだけで。
この辺りは理屈じゃない。

「ああ、妬いてる奴の分も」

持ってきてやって、とかソファに腰を下ろした客が可笑しそうな顔をした。

「メイト…実は嫌な奴だよな?」

「おまえのその態度だと思うけど」

「え?」

「あいつが、喜ぶ大半は」

キッチンに駆けてったアカイトを見届けてから、寄越された苦笑に呆けて瞬く。その発想は無かった。

「…ほんとにそう思う?」

「思うよ」

そうならたとえ半分だって嬉しいけれど、大半は確実に言いすぎだ。

「おまえ…良い奴だよな…」

吹き出したメイトの隣へ思わず腰を下ろした時間は長くなく。

「あーっなんでそこ座るんだよ」

戻ってきたアカイトに無理やり割込まれて元の向かいへ移った後に、反応を伺うような赤い瞳と一瞬目があった。

まさかいつもそうだった?
今まで全く気付かなかった視野の狭さが我ながら滑稽で仕方ない。

「てっきりそうゆうプレイなのかと思ってた」

「えっと、待ったそれはどうゆう」

趣向か大いに興味を惹かれるところだが、詳しく聞くのは後でもいい。

なんだよ何の話だと機嫌を損ね出した子にメイトが笑って。

「アカイトが可愛いって話だよなぁ?」

「そう、すげえ可愛いって話」

こちらに振られた同意へ力強く頷き返した。


end
不純な矛盾』(マスイト)のメイトだったり
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