今日言う共有
ある筈のない三角の耳がアカイトの頭上でへたりと下がって見えた。


口論の切欠何て確かいつも通りの些細なもので。

彼の我儘を俺が窘めて言い返されて、それで。

ただひとつ違うのは彼の常套文句を俺が初めて言ったくらい。

びっくりしたように瞠っていた瞳が思い出したように一度瞬く。

量の多い睫毛が再び上がるころには薄く水膜を隔てた真紅がゆらりと揺れた。

さっきまで頭に上っていた熱が嘘のよう。

ざっと身が冷えた反射で向かいの両手を捕まえた。ぎゅっと握るとびくりと震える。どうしよう。

「ごめんね、嘘だよ、泣かないで」

ぽたりと手の甲に落ちた滴に慌てて目元を拭った指先は払われることなく。

けれど弁明を求めるように睨まれてすこし力が抜けた。

よかった、言い訳を聞いてくれるらしい。

「その…てっきり、言い返すかと思って」

いつも先に言い出すのはアカイトだから。

「…っれは、…ない」

「え?」

「だって、おれはほんきじゃない」

その言い方があまりにも偉そうで、いたいけで、拗ねた響きだったから。

「なん…っなんだよ!」

「ごめ、ごめん」

思わず笑ってしまったけど、だってそんなの。

「俺だってそうだよ、本気なわけないじゃない」

「…おまえなんか嫌いだ」

聞き慣れた渦中の常套文句は無意識だったらしく。
笑い返せば掠めるように頭をぱしりとはたかれる。

「いたい」

「なんだよ、もう、へらへらすんなよなっ」

推測を肯定された今そんなの無理だ。

さっきまで泣きべそだったのも忘れて普段の調子を取り戻したアカイトが、尻尾振んなとか。

俺と似たような幻覚を見るから結局笑った。

彼の本心と同じくらいこちらのそれも伝わっているのなら嬉しいし愛しい。

「俺アカイトが好きだよ大好き」

嫌いだなんてあるわけない。

真っ赤な顔を顰めた彼がもういい分かったと音を上げるまで大好き大好きと懐いてまわろう。

心に決めた今日の予定はひどく楽しいことに思えて気持ちが弾んだ。


end
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