マス青+(マス)赤
「大体あいつは身勝手すぎる」
「…アカイトがそれを言うの?」
驚いたようなカイトの口振りに煽ったビールが変なとこ入った。
「ごほ…っあはは」
「わあマスター大丈夫ですか」
「なんだよ!だってそうだろ」
S字に隔てた仕切りの左右で煮立つ具材の様子を見つつ白湯側には水菜を入れる。チゲ側はニラ。
夜になって雨が降り出した時点で、まぁそんな気はしていたんだが。
案の定、外行きたくないってごね出した友人との約束が外食から家飯に変更されたのはつい先程の話だ。
それでも、アカイトが押し通せばあいつも渋々出たと思う。
友人の気紛れにすんなり従ったってことは恐らくアカイトだって面倒臭くなってたんだろう。
要は今夜の件に重ねて浮かんだ別件が浅い記憶にあったのかもな。
「でも確かに今日寒かったですしね」
「だなーまた今度行こう」
隣から配られた受け皿をアカイトにも手渡して、追加用の香辛料も彼の手元に置いておく…程度じゃ彼の心持は回復しなかったらしく。
「…カイトまであいつの肩持つのかよ」
おまえは誰の味方なんだとか。
むくれだした子が唐突に幼気なことを言うから、青い瞳と思わず一度、目を見合わせて破顔した。
「俺はいつだってアカイトの味方だよ?」
マスターのご友人には悪いですが、と悪戯に微笑んだカイトに笑って空いたグラスに酌を受ける。
「そうだな、何かあったらうちに住めばいい」
何の心配も要らないと背後の襖へ視線を流せば数度瞬く深紅の瞳。
カイトは、まぁともかく俺の見解に動揺するところがどうにも微笑ましい。
「え?…えっ…だって、おまえは」
「うー外すげえ寒い…ほら黒糖、あと芋」
悪い、話遮った?と自宅から戻ってきた隣人が並べて置いた焼酎の瓶に礼を返してこたつへ促す。
「いや、うちの客間はアカイト用に空けてあるって話をな」
「おー初耳、なんだそれ俺の別宅ってこと?」
「家出されないようにしなさいねって話だろ何でおまえも使う気なんだ…」
「マスター…味方居なかったんだな…」
仕方ないから俺がなってやってもいいとか気の毒そうな顔した子に三人で瞬いて。
「何か良くわかんないけどアカイトがかわいい」
「可愛いな」
「ですねぇ」
「…なん…なんでおまえらがグルになるんだよもう!おかしいだろっ」
徐々に顰めたアカイトの目元が装ってやったチゲ鍋に負けないくらい真っ赤で笑った。
end
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