3人
必要以上の連打チャイムに起こされてメイトと向かった玄関先に。
多種媒体で目にする姿と変わりない、真っ赤な身なりを縁取る白いファー。
「こんばんは、サンタクロースです」
草木も眠る丑三つ時に、サンタが家にやってきた。
酔っ払いに突っ込んだら、負けだ…。
明確な回答なんて返って来るわけがないのだから。
自然と零れた嘆息に隣でメイトは笑ったけれど、笑ってる場合じゃないと思う。
ちょっと真剣に、想う相手を再考する機会なんじゃ…
なんてこちらの心配は他所に、当事者は意に介した様子もなく。
「マスター、泊まってくるんじゃなかったのか」
「送ってもらったんだ〜」
「トナカイに?」
噛み合ってない会話を気にしないどころか、冗談すら返しているから。
「メイトはホントにぶれないなぁ」
そっちを考え直させる前に、こちらがうっかり惚れ直したり…してる場合じゃない。
「こっちがケーキでーそれ鶏な!あと摘みも」
「ちょっともーここで広げないで」
気を逸らしてる間に足元へ手土産を並べてたマスターがにこにこと笑って。
「ミクオはこれー」
寄越してきた片足だけの赤いブーツは、この時期度々見掛けるやつだ。
「なに、これ」
「なんと!中にお菓子が入ってる」
そんなことは見れば分かるんだけど。
どういう意味の選択なんだと重ねて聞くのは野暮な気がして止めておいた。
「ありがとう…」
喜ぶと、思ったのなら。喜んでやろうじゃないかなんて。
ボランティア精神が働くくらいの無邪気さに、こちらの毒気も抜けてく気分だ。諦めの境地とも言う。
「ほらマスター水、飲め」
「メイトはシャンパンな」
「おーおーなんだ凄いな」
いつの間にかグラスを手に戻ってきたメイトが床の惨状と受け取ったボトルを眺めて瞳を細めた。
片思いの何が辛いって、好きなひとが嬉しそうにしてるのを素直に喜べないときだろうな。
「ひとまずこの辺持ってくね」
なんとなく見てられなくて散らかる荷物へ伸ばした両手が何故かしっかり掴まれる。
「…なに、マスター冷蔵庫入れられたいの」
「あのなー本場?本来?家族で過ごすんだって」
「はあ?」
「クリスマス!俺今日知ったー」
だからふたりに会いたくなって帰ってきたんだと笑ったひとの予定は確か。
恋人だか友人だかと仲間内で一夜を明かすって言ってた筈だ。
唐突な我侭に付き合ってここまで送ってくれるくらいなのだから、いいひと達なんだろうに。
「後でお礼言っとかないとなぁ…」
感慨が混じる苦笑に相槌を打って、零した溜め息が明け方近い冷気に溶け込む。
未だ握られた手のひらは熱い。アルコールの所為もあるんだろうけど眠いのかもしれない。
「子どもみたいだなこのひと…」
率直で利己的。他意のない情愛に絆される感覚を知った。
end
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