カットに葛藤
名を呼んだ後に続く話がどんなにくだらないものだとしても。

こちらを映す青い瞳はいつだって柔らかく甘い色を載せる。

そうやって呼吸のように自然と、向けられる好意に馴染みすぎていたから。

積もる些細な違和感を気のせいだと、根拠も無く否定していたけど。

びくりと震えた肩。逸れた視線。俯いた彼を眺めてやっと。

ここ数日、やっぱり距離をとられていたのだと、気付いた俺は恐らく鈍い。

「…ごめん、驚いた?」

カイトの傍に落ちていたリモコンを拾って、上体を起こす。

「あ…すみません、大袈裟に」

返る声音は笑っていたけど微かに、ほんの微かに揺らいだ。

身を離した後に聞こえた吐息は安堵なのかどうか。

音量を上げる目的で手にしたそれをコンポに向けて迷った数秒後。

結局は電源を落として、訪れた静寂に浅く息を吸う。

「あー…カイト、」

こんな風に緊張して、名を呼ぶのはいつ振りだろう?初対面以来かもしれない。

彼を迎えて3ヶ月。
自由気侭な一人暮らしが褪せて思えるくらいには、ずっと楽しかった。

けど、カイトは?
ひとの嫌な面に気付くには十分な期間だ。

「その…俺に言いたいことない?」

え、と瞬いた瞳が漸くこちらを捉えたのは僅かな時で。

徐々に逸れていく視線に急かされるまま、思ったことは言って欲しいと口を開く。

見る間に強張った表情を前に再び名を、呼ぶより早く。

「…っかみ」

零れ落ちた声音を拾った。

「え?」

「似合います」

足されて漸く前言が正しい漢字に変換される。髪、だ。

「…だ、って切ったの先週…」

「すっ直ぐ言おうと、思ったんですが」

そういうことじゃない、けれど、食い違いに気付かないまま。

「なんか、違う方みたいで…その」

カーッと色づいていくカイトの目元を半ば呆けて眺めた。

「緊張して…」

「俺、俺のが緊張した…」

どっと力が抜けるって表現をこれほどまでに体感したことが無い。

「なんだもう…よかったー」

背凭れにしていたソファの座面に突っ伏して呟いた独白をどう捉えたのか。

「はい、とっても良いです似合います」

「あ、ありがとう…」

未だ赤い顔のまま、真剣に繰り返すカイトへ力なく笑った。


end
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