半醒で反省
「酒いる人ー?」

「はーい!」

急な問いに素早く挙手した炬燵の向かいで、メイトが朗らかに微笑んだ。やられた。

「じゃあ俺のも」

「…はい」

お持ちします。お持ちしますよビールくらい迅速に。

悪いなー、なんて全く悪びれてない声さえも堪らなく思えるのだから仕方ない。何とかの弱みだ。

年末の特番が流れる、賑やかで暖かいリビングから旅立つ先は暗く。

「なぁ知ってた…?極寒、極寒なんだぜキッチン…」

「熱燗にすべきか迷うよな」

「そうなんだよ」

「けど炬燵入ると冷えたビール飲みたくなるよな」

「そうなんだよ!分かる?この俺の葛藤が…一瞬のジレンマが」

「分かったから座れ、ほら」

笑ったメイトが剥いてた蜜柑を丸ごと、こちらへ寄越すから。

座りかけた元の位置から移動して、近寄った斜め隣の布団に入って口を開いた。

自分で食えとつれない視線に、すかさず卓上の並んだ缶を促す。

寒い場所で、より寒いとこから冷えた物を取り出す勇気プライスレス。

「ご褒美」

「蜜柑でいいんだ」

「え」

大雑把に分けた房の塊を口に押し込められたら直ぐにはしゃべれない。

「手軽だなマスターは」

こちらのもどかしさを分かってるくせに、意味深な流し目を寄越したりする。

「…メイトは意地が悪い」

悠々と新たなビールに口をつけてた奴が無邪気に笑った。機嫌がいい。

「でも、好きだろ?」

大掃除完了を口実に数時間、だらだらと飲んでいるからそれなりに酔ってるんだと思うけど。

そんなのは何の免罪符にもならないって分かってて煽ってんだよな?勿論。

出来上がっているのはお互い様だ。

「好きだよ」

瞬いたメイトから奪った缶は再び卓上へ戻して、空いたその手に柔く噛み付く。

「待て待て」

「無理無理」

「蕎麦は」

「あとで」

年越しメイトを選んだ時点で年越した蕎麦になるのは目に見えていたけれど。

乱れた息が整う頃に近所の寺から響き始めた鐘の音が、煩悩を払うどころか妙に背徳感へ火を点けた。

結果、場所を移した寝室で気怠るさのみの寝起きに浴びた日差しは既に空高く。

来年こそは反省の無い新年を迎えようかと、二日酔いの頭痛と共に。

元日早々、翌年の抱負をメイトと共有するのはまた別の話だ。


A HAPPY NEW YEAR!
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