盛夏の所為か
朝と言えども蒸し暑い夏空の下、よくもまぁ駆け回れるものだと。

中庭で遊ぶマスターと名ばかりの番犬を眺めていた窓辺で。

「あっずるい俺のはー?」

こちらに気づいたマスターに指摘されて仕方なく。

「…これがラス1」

咥えていた氷菓を差し出したら笑われた。

たまに吹く風は湿気を帯びて生温く、耳に煩い蝉の声。

首の後ろをじわりと汗が伝うのがぼんやり分かって。

もしかして、と落ちた声音も一拍遅れて耳に入った。

「バテてる?」

上辺が欠けたソーダ味のアイスバーは数秒の往復でぐずぐず溶けて。

俺の手に戻る頃には足元の石段をぽつりと濡らした。

冷房入れようか、と室内へ脚を上げた奴を止める。

「おまえ頭痛くなんだろ、クーラー」

「…少しなら平気だよ」

「いいって」

言ってるのに。

いやでも、と引き下がらないマスターの腰を掴んで、物理的に引き下げた刹那。

「おあ…っ」

「あーあ」

手元から崩れ落ちた甘い氷が伝った素脚の直ぐ近く。

短い裾から覗く膝上に触れてきたでかい手を訝しむ間も無く。

屈んだ、マスターの、


「アカイト…おまえ顔、真っ赤」

熱中症か?と慌てた奴が冷房を点けに行って、冷えた水を手に戻るまでの間に。

「〜…っっどー考えてもあいつの所為だろ」

飼い主と同じ場所を舐めてきた愛犬がワンと鳴いて賛同を得た。


end
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