win fin
「マスターだいすき」

蚊の鳴くような声音を聞いて、手にしてたコントローラーを放った。

「聞こえない、だめ」

「な…っおまえなぁ」

「あんだよ、文句あんのか」

じゃあもう終わりだな、と腰を上げた瞬間に服の裾を掴まれる。

「おい、伸びる」

「マスター大好き!」

「初めっから言えよもー」

しょうがねぇなーと笑って頭を撫でた手をすかさず払い除けたのは、まぁ頂けないが。

赤い髪から覗く耳まで同色に染まっているのが見えたから。

多少は大目にみようかと、再びアカイトの隣へ座って操作した画面の中央Fightの文字。

3回勝負で1セット×何試合目かは忘れたけれど、軽く二桁はやってると思うのに。

「1回も勝てないっておまえ…」

「おまえが嵌め技使うからだろ!」

「えー今使わなかったじゃん…」

オーディオラックを整理した際に出てきた格闘ゲームは、学生時代に熱中していた年代もので。

懐かしさにハードも探して起動した数時間前の俺を殴ってやりたい。いや、違うな。

アカイトの負けず嫌いを失念したまま誘った部分を詰め寄りたい。

最初は可愛かった。
ムキになるのも。拗ねるのも。

だが限度がある。
飽きてもくるし、疲れもする。

なら負けてやろうかと思えば、手ぇ抜くなと怒られ。勝ったら勝ったで不貞腐れ。

癇癪を起こした挙句、リアルファイト(一方的)に突入しかけた軌道を修正するのも苦労した。

「次!早くしろ」

「…まだやんのかよ」

「当たり前だろ」

悪循環ここに極めたり、な状況を緩和しようと吹っ掛けた条件が、

「マスター大好きは?」

これだ。物事には潤いが必要だ。苦行であればあるほど。

「さっき言っただろ!」

「だめ、1敗ずつ」

「…無理やり言わせて意味があるのか」

アカイトがまともなことを言っている。
明日はクライアントに会う用事があるから雨は止めて欲しいが。

「じゃあ、いいよ本音で」

自ら墓穴を掘り進むあたりはアカイトだから、恐らく晴れだ。

「は?」

「俺のこと、どー思ってんの?」

強制的な条件下の方がハードルが低いとやっと気付いたのかどうか。

唇を噛んだ子が顰めた目元を染めていくのを暫く眺める。

アカイトは大いに面倒臭いし、捻くれ倒してはいるが。

こういうときに適当な言葉を投げて流せないところが可愛い。

「…あ…あとで言う」

「後でって?」

寝るとき、って呟いた声は泣きそうで絆されたし、拙すぎる誘い文句に文句も無い。

「分かった。じゃあ今日は次がラストな」

今日は、を強調して伝えれば、素直に頷く返事に笑って。

出来る限り迅速且つ上手く勝たせて終わる手段を思案する。

対アカイトは何事も、負けるが勝ちだと改めて学んだ。


end
募マス箱より「ゲーム好き」マスターとムキになるアカイトでした。
対戦ゲームしてて全然勝てなくてムキになる、でも手を抜いて負けてあげると拗ねる赤面倒くさ可愛い!※要約
とのことだったので、そんな感じで可愛がりました。めんどくさいは正義><※ただし赤に限る
寄付して下さったピンポン様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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