キラキラ
結婚して欲しい、なんて。

マスターが言うから、俺は思わずカレンダーを見た。

「…心配しなくても」

今日は4月1日じゃないと苦笑いが返る。

俺の考えたことはそのまま、筒抜けていると教えられたみたいで。

ぶわ、と頬が熱を持つのが分かった。目前のひとはすこし不満そうな顔。

「プロポーズには無反応だったのに…」

曰く、タイミングが遅いそうだ。

「ぷ、ぷろぽー…」

「ズ。返事は、そうだな…」

今じゃなくてもいいけれど、なるべく早く欲しいだなんて。

猶予があるのか無いのか分からない話がどんどん先へと進んでいる。

「あ、あの…マスター」

「はい」

いつになく改まった顔をしたひとを前に、こちらも自然と緊張した。

伝えるべきか、迷ったけれど、決められている以上伝えないわけにもいかないと。

「ど…同性とは、結婚できないんですよ」

残念ながら、と加えるとマスターは呆けたのちに優しく笑った。いつもの顔だった。

「できる国もあるよ」

「そっそうなんですか?じゃなくて…ええと、それより前に、俺は」

「ボーカロイド、だろ」

やっぱり読まれている。
俺の処理能力だけが、ちっとも追いついていない。

なんで、と零しかけて慌てて口を噤んだ。

理由はさっき、たくさん。
たくさん教えて貰っていた。

いつから、どこが、どういう風に、マスターが俺を…好きだなんて。

そんなこと、あるわけがないと。

思わず呟いた俺に、返った言葉が前言のプ、プロポーズに繋がるなんて、思ってもいなかった。

「…じゃあ、言い方を変えるな」

点けて間もない煙草が灰皿でもみ消されるのを眺めてる間に片手を捕られた。

驚いて見上げると、欲しいのは形式じゃないと前置きが落ちる。

「病めるときも、健やかなるときも俺の隣にいてください」

嘘じゃない、信じてくれと切実な声がした。祈るような声だ。

「カイト」

「…はい」

「えっと…だから、それくらい好きなんだ」

「あの、ですから、はい」

こちらこそよろしくお願いしますと頭を下げる。

「なんて言うんでしたっけ二日…?」

「…不束者?」

「それです、それですが、お願いします」

あなたを、疑ったことなんて一度も無い。疑うのはいつだって、何も持たない自分自身だ。

けれど。

あなたがそう望むなら、俺にも価値が見出せる。

「マスターが好きです」

溢れてはぶれる世界で初夏の風にカーテンがはためく。

木の葉の揺れる音がして、リビングへ差し込む日差しは暖かい。

好きで、好きで、好きで、堪らなかったひとは瞬いて、カレンダーを見たりするから。

「…今日は4月1日じゃないですよ」

笑った拍子に零れて弾けた雫がやけにキラキラ光って見えた。


end
ご結婚おめでとうございます!
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