SOS
「なんかあった?今日」

投げた問いに瞬いたアカイトはマグカップを片手に眉を寄せた。

「なんかって、なんだよ」

表情や雰囲気がいつもと何か違う気がして聞いたのだけど。

「いい事とか」

「いいこと…」

気のせいだったかと缶ビールへ口をつけた俺からローテーブルへ、移る視線の後を追う。

「おまえが土産、買ってきたな」

帰りに寄ったコンビニで、酒と一緒に買ってきた所謂摘みの類だ。

まぁ確かにアカイト好みの味もあるけど、土産って言えるほどのものじゃない。

「おまえ、安いなぁ…」

大袈裟に感心してみせた苦笑に、反射的な非難は上がらず。

「おまえに合わせてやってんだろ」

それどころか皮肉っぽくいなされたりする。いつの間にそんな返しを覚えたんだろう。

今度はほんとに感心して、思わず黙ってしまった所為か。

「…なんだよ」

バツが悪そうに顔を逸らした子が、何か言えとか唇を尖らせた。

そんな癖の類の仕草でさえも、誘われてる気分になれるのだから。

自分で思っていたよりずっと、前向きなのかもしれない。

「ああ、もう止めとけ」

キスが辛くなるだろ、と卓上で制した手は瞬時に叩き落される。顰めた顔が赤い。

「いっ嫌なら、しなきゃいいだろ!」

色事の戯言は上手くかわせないらしい。

香辛料塗れの乾物を乱雑に頬張る仕草は、必死に頬へ種を詰める小動物にも見えた。

手のひらひとつで簡単に愛でられそうな錯覚を起こす。

「しなきゃいいっておまえ…」

だったらしないと、咄嗟に主体を取れないところがアカイトは健気で可愛い。

怒らせると分かっていても堪えられず、声を上げて笑った俺に、返った視線は非難を含むものでは無かった。

寧ろ、ほっとしたような気配さえ滲む。

「なんだよ…笑えんじゃねぇか」

呟くような声音を聞いて漸く、ぼやけていた違和感のピントが合った。

いつになく饒舌だった声色も、
不意に注がれる視線の温度も。

機嫌がいいのかなんて安直に思っていたが、見当違いも甚だしい。

帰ってから、たぶんずっと。

慰められていたのだとやっと気付いた。

「…何か、あったのはおまえだろ」

拗ねるように告げられた指摘に咄嗟の返しが全く浮かばず。

引き寄せた腕に慌てた子が、辛くていいのかとかいじらしいことを言う。

「アカイトなら何でもいいよ」

笑い返して鼻先を寄せる。

スパイスの効いた唇を塞ぐ頃には、たった今まで心を苦くしていた全てが甘く些細に思えた。


end
Sweet On Sweet
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