初めの始め
一時の恋愛を前提としていれば、外見と場数だけでもそれなりに上手くいく。

それが分かっていて近づいてくる相手を選ぶのだから。

はじまりもおわりも、気兼ねなく簡単だ。

いつだって即決してきた選択なのになぁと。

ぼんやり見ていた端正な横顔が急速に緊張したのが分かった。

こちらの視線に気づいたらしく、髪から覗くカイトの耳がじわじわと赤く色づく。

その様を黙って眺めていると、雑誌を捲っていた手も止まる。

「な、なんですか…」

ついには耐え切れなくなったのか、困った顔したカイトがこっちを向くから、俺も困って少し笑った。




『マスターが好きです』

俺じゃダメですか、と告げられたのは先週だ。

簡単に始まった相手とやっぱり簡単に別れた日だった。

眉を下げたカイトは微笑んでいたけれど、落ちた声音は切実で。

男女問わず言われ慣れた告白に、柄にも無く戸惑った。

『じゃあ、惚れさせてみて?』

なんて、いつもの調子で笑い返せたのは奇跡だ。

瞬いたカイトは柔らかく笑って、じゃあがんばりますと軽い口調で言った。

それで冗談になった。冗談にしたかった。

俺に付き合って、そうしてくれた。カイトは聡くて優しい。

対してこちらは、本当に何も無い。節操も無いし誠実でも無い。

自分で言うのもなんだが、俺なんかに捕まる必要は無いと思う。

思うなら、曖昧にせず、ちゃんと断るべきだった。

けど出来なかった。
躊躇う理由をずっと考えていたけれど。

そんなものは初めから、ひとつしかなかった。




「俺、カイトと別れたくないんだ」

あんまりにもすんなりと落ちた答えに、俺が驚いた。

のだから、カイトが瞳を瞠るのは当然だと思う、し、順番もめちゃくちゃだ。

けれどそれがきっと真実で全てだ。

「あ〜…でも、俺すげぇいい加減で…」

いや知ってると思うけど、なんてもう場数も何もあったもんじゃないが。

所詮その程度の付き合いしかして来なかったんだから仕方ない。

失うのが怖いから手に入れるのも怖いなんて、思ったこと無かった。

いざ、本気になってもどうしたらいいのか分からない。

「つーか…俺の何がいいの?」

我ながら酷い展開に、呆けたカイトが瞬いて珍しく吹き出した。

のち、声を立てて笑い出すから今度は俺が呆けて眺める。

「…マスターのそういうとこ、全部好きです」

涙が滲んだ目元を拭ってカイトが笑う。

「意外と不器用で、臆病で、どうしようもない」

「…それ褒めてるんだよな?」

「大絶賛です」

釈然としない部分は大いにあるが、返る笑顔は文句なく可愛い。

「カイトが好きだ俺も…あの告白まだ有効?」

涙を溜めた青い瞳が綺麗に瞬く。

「…今より惚れさせてくれますか」

冗談っぽく笑ったカイトに笑って、がんばりますと答えた時点で。

譲ったことがない主導権を持っていかれた気がしたけれど。

初めて手にした始まりに比べたら些細なものだと思った。


end
募マス箱より「彼女とっかえひっかえな」マスターでした。
「カイトに告白され、「じゃあ、惚れさせてみて?」と返して…」ここから自由に飛んでいいとのことだったので、ほんとに自由に飛んだらとんだヘタレマスタになってしまって楽しかった!すみません!
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^

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