XXX
暇さえあれば…
いや、暇が無くともいつだって。

触れたい相手が手の届く距離に居て、目が合って、笑ったり、したら。

それだけで充分すぎる流れだと、俺は、思うんだけど。

「す…っすみませ…」

見事に噛まれた。


「…だ、大丈夫」

「うう…っ」

咥内に鉄の味はしないから、どうやら切れてはないらしいと。

口を覆って衝撃をやり過してる間に、向かいの瞳が濡れていて。

次々溢れる涙の粒が火照った頬を伝っては落ちていく。

泣きたいのは大いに、俺の方だと思うんだけど。

先を越されてしまったら有り余る愛情で耐えるしかない。

軽い気持ちで仕掛けたキスが招いた惨事の新鮮さに思わず笑った。

「あの、あの、びっくりして…」

「ああ、だよな」

「心構えがで、きてな、くて…」

「だよな、急だったよな」

「好きですマスター大好きです」

「…急だなぁ」

最早泣きじゃくる域に達してるカイトの頬を手繰り寄せたティッシュで拭って。

鼻をかませる頃には、先の甘やかな空気(俺的に)も一緒に払拭していて。

ちいさい子をあやすような気分へ切り替わっていたんだけど。

「も…っしてくれな、ですよね?」

簡単に引き戻された。

綺麗に揺らぐ青い瞳に魅入って流れた沈黙が、何やら誤解を招いたらしく。

ぶわりと新たな雫が溢れる目元へ先に寄り道してから唇を軽く塞いで離した。

「…もっとしていい?」

強風に吹かれたみたいに呆けたカイトが瞬いて。

無防備な顔のまま、頷いたりする。

こちらが欲しい了承と受け取るには無垢すぎる、表情に気付かない振りをして。

このまま、与えて奪ってしまおうか。

葛藤に苦笑したのは数秒で、結局は今日も。

カイトの思う『もっと』の範囲の子供みたいなキスをした。


end
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