luck from rack
「寝落ち?」

キッチンから掛かった声に、携帯から視線を上げて頷いてみせる。

いつもだったら遅くとも日付が変わる前には連絡が来るから。

「この時間じゃたぶん寝てんな」

「あいつはほんとに…」

いい加減だなぁと呆れた声を出したメイトの手には焼酎の瓶。

「ああ、類友ってやつか」

失敬な発言はひとまず目を瞑る…いや、耳を塞ぐとしても。

「…俺のは?」

乾き物の摘みが並ぶローテーブルに、置かれたグラスの数は流せない。

「出掛けんだろ?」

向かいに座ったメイトが妙に優しく微笑んだ。

「おまえ話聞いてた?」

会う約束をしてた友人から音沙汰が無いのだから、ひとりで深夜の街へ繰り出す筈もなく。

「つーか喜ぶとこじゃね?」

「何に?」

「マスター家に居るんだ嬉しーって」

「…あのなぁ」

早々と注いだ酒を飲んでる奴の、グラスで氷が音を立てる。

「俺はひとりで、だらだら、朝まで、飲む予定だったんだよ今夜は」

「ふたりでだらだら朝まで飲もうよ」

付き合うよ、と掛けた誘いに嫌そうな嘆息が落ちる。ひどい。

「俺で穴埋めすんなよな」

言ってから失言に気付いたらしく、顔を顰めてから失態に気付いたらしい。

小さく聞こえた舌打ちに笑った。

「穴埋めってなんかえろい」

棚ぼた的な揚げ足は逃さず勿論取りに行く。

「したい、させて、埋め合わせたい」

しつこいとか言ってるメイトだって分かってんだろ。こんなのは先に、気にしたほうが負けだ。

呆れの視線が届いても諦めが混ざっているから怯みもしない。

「…そいつに今度奢らせろよな」

あーとか、もーとか面倒そうな声を出した奴がグラスを置いて腰を上げる。

一瞥した携帯は大人しく未だ鳴る気配も無い。

恐らく数時間後の昼頃鳴って、夜にでも会うことになると思うが。

腐れ縁のアポと、気紛れの合意じゃ取れる比率が全く違う。

今の機会を逃したら、次はいつか分からない。

「メイト好きだ!大好き!」

「もう一声」

「愛してる!」

俺としては旧友に奢ってやりたい気分で、寝室へ向かう恋人の背を追った。


end
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