無粋の付随
乾いた音が鳴ったのは唐突で。

目の前で唖然としてるアカイトと同じくらいには、俺も。

「…おい、なにも殴らなくても」

驚きすぎた所為で咄嗟の反応が遅れた。

「殴ってねぇよ、はたいただけで」

「ばか一緒だろ」

顔を顰めたメイトを窘めると、あのなぁと低い声で溜息が返る。こわい。

「殴られてたのはマスターだろ」

「…それは、」

まぁそうなんだが。

むきになると手が出るのなんか今に始まったことじゃないって、知ってて構った。

「俺に非がある」

「おまえがそんなだから、こいつが加減を覚えないんだよ」

「加減って…」

「血、出てる」

指摘されて頬を拭った手の甲は、確かに赤く線を引いたが。

言われて気付くくらいだ。たかが知れてる。多少爪が掠った程度だと思うのに。

弾かれたように視線を上げたアカイトは強張った顔を歪めた。

「ったく、じゃれんのは良いが」

怪我させんなよな、と深く息を吐いたメイトは通り掛っただけらしく。

キッチンへ向かう背を見送って直ぐ、アカイトへ視線を戻した。

「ごめんっ俺、まじでごめん」

咄嗟に掴んだ両肩がびくりと揺れるのに罪悪感が募って。

「…れ、きらわ…」

「嫌われてない!大丈夫だ!」

こちらを見つめた深紅の瞳が見る間に潤んでいくのに焦った。

「声、が、でかい」

「ああ…だよな、悪い」

こんなことになるなら、茶化したりしなかったのに。ああ、もう。

しかも話題がこの子とメイトの仲だっただけに余計後味が悪い。

5分前の俺を張り倒したい思いで、俯いたアカイトの頭を撫でた。

人の恋路を云々とはよく言ったものだ。邪魔する気なんか勿論無いが。無粋だった。

「やっぱ俺、もっかい説明し」

上げ掛けた腰を掴んできた子が、自分で行くって首を振るから従うしかない。

目元を拭ったアカイトがキッチンへ向かうのを見届けて間も無く。

「さっき、は俺、が悪かったとおも、う」

「あ〜もー俺に謝れって?」

もっと泣かされて帰ってきたのにはその辺を転がりたくなった。

普段は俺より甘いくせして、善悪のスイッチが入るとド正論しか言わなくなる。

メイトは正しい。
正しいんだけど。
反省してる子に反省文を書かせてる気分になって居た堪れない。

本人に自覚がないところが厄介だと、しゃくり上げてるアカイトの手を引いて向かったキッチンで。

「…おまえはもー涙腺弱いな」

フォローに来たのを悟ったらしいメイトが先に、いつも通り呆れた顔で笑うから。

条件反射的に抱きつきに行った子と同じくらいには、俺も。

「メイトの所為だろ!もー!」

「なんでだよ、悪かったな」

「嘘だ、ちがう元を正すと俺が…」

なんだそれ、と返る苦笑にほっとしすぎて泣きたくなった。


end
口実を実行』のイト赤+マスタだったら管理人が楽しい
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