pray be pray
『little by little』その後
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「大体、動機がおかしい」
昔の話になるとアカイトは必ずそれを言う。
けど、誠に仰るとおりなので、こちらとしては笑うしかない。
並んで座るベッドは、一人暮らしを始めた時に自分で買ったもので。
脚がはみ出すから無理だ、と一緒に寝るのを渋られたあの子供部屋の物とは違う。
見上げる必要の無くなった視線の先に深紅の瞳。
身長が順調に伸びて、ほんとに良かった、と思うのは。
柔らかい髪も、滑らかな頬も、触れたいと思ったときに直ぐ手が届くことだろうな。
なんて胸の内を知られたら、その辺の枕で殴られかねない、から、余計な事は言わずに撫でる。
僕の体が成長したことにただひとつ、弊害を上げるならそれだ。
多少は乱暴に扱っても平気だと悟ったのか、
なんだかここ数年でアカイトは凶暴性が増した、ような、気がする。
「おまえ…今変なこと考えてただろ…」
「えっべつに、何も」
「嘘だ!そういう顔だった!」
「どんな!?わあっ待った、いたっ」
気、じゃない。確実に増した。
押倒された方向が壁側だった所為で、頭の後ろでなんだか凄い音がした。
第二波、来るか?来るなら来い、と身構えてみたけれど。
マウントポジションを取ったままの兄貴分は動きを止めた。
「…アカイト?」
部屋に流れる旋律は、さっき出来たばかりの自作の曲で。
「…あ!ほら!ここ!」
僕が昔に作った曲とちょっと似てるって、アカイトが言い出したから。
なんとなく会話の流れも昔話になったんだった。
「な?」
こちらの胸倉を掴んだまま、得意げに返る笑顔に僕も笑った。
写真がその時の情景を鮮明に残す手段なら、
音楽はその時の感情を繊細に残すと思う。
幼い夢を両親に叶えて貰った遠い冬の日、
アカイトの歌を聴くって新しい夢が出来た。
早く歌って欲しくて必死だった当時の僕が、一番最初に作った曲。
その一部を、新しい曲に隠して混ぜた。
アカイトと出逢って今日が3652日目。10分の1世紀。
それだけの歳月を経ても、彼を想う気持ちが色褪せたりはしない。
むしろ、彩りは増すばかりで。
「アカイトに会えてほんと良かった」
何度も伝えたけれど、何度だって言う。
瞠った目元が見る間に色づく瞬間はいつだって可愛いけれど。
愛しいと思ったのはいつからだったか。
「ずっと一緒に居てね」
俯いたアカイトが仕方ないなと呟くようになったのはいつからだったか。
泣きだしそうに寄せられた眉を眺めて、捉えた左手の薬指に口付けた。
神話どおり心に繋がることを願って。
end
マスタが成長した後のふたりが見たいって言ってくれた方へ^^
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