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「なぁ、それ俺も」

頻繁に、とまではいかないけれど。

最近はアカイトから話し掛けてくることも増えてきていた。

聴いていた曲だったり、見ていた本だったり、食べていた物だったり。

大抵は何かの便乗で、
大概は声が少し上ずっている。

会話のタイミングを計りすぎてる所為だとは思うが。

指摘して口数を減らしたくはないから、気付かない振りをしていた。

気兼ねなく話せる日が来たらこんな時もあったと笑い話にできればいい。


「…おまえ弱そうだからなぁ」

食卓の向かいから指差されたのは俺の手元で。

返した苦笑をどう捉えたのか、目前の表情が後悔に翳る。基本的にアカイトは諦めが早い。

「…じゃあ、いい」

案の定の潔さで自分の手元の夕飯へ戻った視線に笑って。

「ほら、駄目だとは言ってないだろ」

差し出したワイングラスを受け取るべきか、決め兼ねてる子の眼下へ置いた。

「無理そうだったら止めておけよ」

飲めそうならもうひとつグラス出すけど、と足して眺めた瞳より、
濃色の液体は光に透かせば赤にも見えるが黒に近い。

花の匂いがする水面をじっと見つめていたアカイトが不意に顔を上げて。

許可を求めるように届く視線へ笑い返した。

相手の興味を知りたいと思うのは、興味がある相手だからだ。

共感することで得られる親近感があることもこの子は自然と学んでいる。

可愛くて堪らなかった。

「…美味い?」

瞬いた目前の頬は赤く。緩く頷く、反応が既に鈍い。

グラスの嵩は大して減っていないから、やはり強くは無いらしい。

解禁されたばかりの今年の新酒は、味は元より色も香りも良かったけれど。

熱っぽく睫を伏せた色香の前には霞む気もする。

味を知りたくなる前に止めるべきかと身勝手な葛藤に苦笑した。


end
ボジョレーが解禁したときいて
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