beast beat
「なんで、獣なの」

鏡に映った自分の姿があまりにも滑稽すぎた。

正確には頭の左右で、新たに増えた三角の耳が異様な存在感を発している。

「獣っておまえ…猫だろ」

猫の耳、と呟いたマスターは、てっきり笑うかと思ったのに。

何やら神妙な面持ちでこちらを見るから多少の面は食らった。

「…だから、言ったじゃない」

髪の色に馴染みはしない毛並みは白で、いかにもな安っぽいおもちゃだ。

恋人宛に、とマスターが職場の先輩から貰ってきた代物だった。

宛先に絆されて受け取った自分を呪ってやりたいと、
思う程度には俗物的なそれに呆れたのがついさっきで。

恐らく、マスターもからかわれたのだと思う。

クリスマス程メジャーじゃない。
イベントが今日だと思い出したのは、僕だけじゃなかったのに。

絶対似合う可愛いと順応されても嬉しくないどころか腹が立つ。

実際つけて現実を見せればいかに馬鹿なことを言ってるか気づくかと思ったけど。

自分で呆れるのと、人に呆れられるのは精神的なダメージが違うって今気づいた。

腹立たしい筈の言葉を欲しいと思う前に手を掛けて。

「あー待った、待って」

外しかけた物を寸前のところで止められる。

相変わらず無表情に近いひとは何かを躊躇ってるようにも見えた。

「ちょっと、何…わあっ」

急に引き寄せられた身体が浮いて閉ざされた視界の中で、落ちた溜息を聴く。

「…言っても呆れない?」

「なに、も…苦しい」

離して、ともがいたところでびくともしない。

腕の強さに諦めて、分かったと足したその耳元で。

「後でTreatもあげるから」

Trickもお願いします、とか馬鹿なことを真剣に言う。

見たら駄目だ、と思うのに。
緩んだ拘束に誘われて見上げた先で目が合った。

隠しもしない切実さに負けてしまう。

別に、何も減りはしない。
どころか、寧ろ増えるばかりな気もする感情に流されるまま。

伏せた目を了承と受け取ったらしいひとが額に口付けてきて。

直ぐに服の裾から手のひらが肌を辿る。

作り物の耳なんかちっとも必要じゃない。

どっちが獣なんだと呟いた言葉にマスターが笑った。


Happy Halloween!!
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