口実を実行
「ハロウィンって知ってるか?」

教えてやろうか、とか。

こちらの返答も待てずに言われたら、ああ教えてくれと返すしかない。

服の背を掴んで来たアカイトに笑って、切り終えた根菜を鍋に放った。

クリスマスは気を回すがハロウィンは完全にノーマークだった。

ああ今日か、と気づいても南瓜を使う以外にそれらしいメニューも思いつかない、し。

そもそも食うことに意味がある役割じゃなかった筈だ。

「それでトリックワトリって言うと菓子が貰える」

「…うん?もっかい」

予定通りでいいかと夕飯の準備を進める横から進む話を思わず止めた。

「トリックアトリー」

さっきと違うし、俺が知っているのとも微妙に違う。

けれど、教えて貰ってる身としては訂正も出来ずに。

「もし言われた時に渡せなかったら」

相手の言うことをひとつ聞くしかない、と続く説明は遮らずに聞いた。

「…そりゃ大変な行事だなぁ」

大抵の情報源はマスターで、
大抵の情報は歪曲されている。

後になって正しい知識を得たときに、からかわれたと憤る割には毎回。

聞いたままを鵜呑みにしてくるアカイトは変なところで妙に素直だ。

相手が一枚上手なのか、こいつが騙され易いのか、その両方かもしれないが。

マスターが大人げ無いのだけは確かだと息を吐いた隣で。

「なぁ俺、2回言ったよな」

エプロンを引いて来たアカイトの主張に笑った。

「なんだそれ何度も有効なのかよ」

用意が無いのを分かってるから言いに来たんだろう。

たぶん、と頷いた顔がやけに真剣で必死なのが可笑しい。

そんな口実に頼らなくとも欲しいなら欲しい分だけいつだって。

代わりに渡せる甘いものなら幾らでも内から溢れて止みはしない。

「で?アカイト坊っちゃんは何して欲しいんだ」

「その呼び方止めろよなっ」

「分かった、それ1個目な」

狡いとか違うとかなんとか顰めた眉の間に口付けて。

ささやかな我が儘に応じるべくエプロンを解いた。


Happy Halloween!
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