pace of peace
「アカイト、あーくん、あーちゃん」

もう少しで眠れそうな段階で何度も呼ばれた声に唸って。

こちらの両脇へ伸ばされた腕をはたき返した抵抗も空しく。

「脚いてぇ、痺れた」

笑ったメイトにずるずると引き上げられるまま抱え込まれる体勢になった。

枕が膝から懐へ替わっただけだ。

居心地が変わらなければ眠気が覚める筈もなく。

再びやってきたまどろみに意識を手放しかけた矢先。

「おまえ今日なに食いたい?」

頭上から降ってきた問いに呆れて視界を開いた。

「…まだ見てんのか」

目前のPC画面は相変わらず、投稿レシピの検索サイト。

最初は酒の肴程度だったけど。

最近は手間の掛かる面倒そうな料理を気紛れに作ったりする。最早趣味だ。

「別に…何でもいい」

半分寝てても返した答えは言葉通りの意味だったのに。

「張り合いがねぇなー」

投遣りだと捉えたらしい奴がひとの頭に顎を載せたまましゃべるから。

微妙に痛いし、がくがく響く振動で否応なしに眠気が飛んだ。

さっきまでずっと、俺が話し掛けても空返事だったくせに。

自分の集中力が切れた途端ひとを構ってくる辺り、メイトだって充分勝手で気紛れだ。

俺のことをとやかく茶化せる立場じゃないって、普段の処遇を思えば腹は立つけど。

「…メイトが作んなら何でもいい」

今向けられている関心を他へ逸らすのは惜しい気もする。

「おーなんだおまえ、可愛いな」

寝惚けてんのか?と甘く笑ったメイトが先に、理由と動機を付けたから。

振り向いたこちらの頬を摘まんだ指が離れる前に口を開いて歯をあてた。

「いて、こら噛むなおまえはもー」

しょうがねぇなとか言ってても返る苦笑から余裕は消えずに。

遠回しの催促が通じたらしく直ぐに口を塞がれた。

こちらの全てに従うような雰囲気に従って甘えた時点で。

相手のペースに慣らされてるのは俺の方だと気付いたけれど、今更だとも思う。

欲しがればくれるならいくらでもねだれる気がした。


end
[歌へ戻る]

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -