すきのきす
会話の不意に訪れた沈黙は決して気まずいものではなく。

寧ろ、今を逃したら大いに後悔しそうな雰囲気だったから。

迷わずに口付けて、後戻りできないとこまで追い詰めたソファの上で。

「…俺の、何がいいんだ…」

困惑を通り越したのか、拗ねたこどもみたいに俯いたアカイトの長い睫を眺めた。

何がって。

この状況で、そういうこと、聞いちゃうところが堪らない、と思うんだけど。

「なんだと思う?」

「…。」

考える時に、ちょっとアヒル口になるのがアカイトの癖らしく。可愛い。

それを見ちゃうと、ねだられてる気分になって、キスして、殴られる、もしくは蹴られる、を。

何度も繰り返してるのに、やっぱり見たくて、悩ませることを言うのが俺の癖になった。

問われた方にしてみれば、聞いといて答えを聞かないわけだから。

そりゃ力に訴えたくもなると思う。ごめん、と謝るべきは俺なのに、後になって落ち込むのはアカイトだ。

そういう、なんかちょっとずれたところで自責する律儀さだったり。

暴言は吐けるのに、本当に言いたい事程言えない不器用さだったり。

そのくせ、顔とか仕草には本音が出ちゃうツメの甘さだったり。

アカイトを取り巻く矛盾は知れば知るほど、切実で臆病で愛しい。

けれど、きっと、どれを伝えても怒るだろうから、結局は今日も。

「…嫌なとこを教えて欲しいくらいだ」

ありきたりな睦言に本音を混ぜて、押倒した耳元に告げた。

好きだとか、愛してるとか。
分かり易い言葉で安心できるならいくらでも言う。

でも、それだけじゃ語りきれないから全てが欲しくなるんだって。

気持ちが全部、触れた傍から注ぎ籠めたら簡単なのに。

「おまえ、ホント、趣味悪い…」

眉を顰めた表情は泣きそうにも見える。

「アカイト程じゃ無いよ」

力の抜けた身体に笑って返した途端に、膝頭で脇腹を蹴られた。

だから、そういうところが好きなんだけど。

やっぱり上手く言葉に出来ない代わりのキスをした。


end
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