点火の転嫁
身を焦がす程の熱はもう穏やかに引いていて。

怠さと甘さを行き来する曖昧な身体に、触れる体温がちょうど良かった。

それでも内に残る火種の欠片が、完全に身を潜めてしまうまで、普段の距離を掴めないでいるらしい。

そもそも切り替える必要なんて無い。

雰囲気に流されてしまえばいいのにと、こちらは常に思うけれど。

大人しく腕の中へ納まってくれている時点で既に、アカイトなりの精一杯なのかもしれない。

つくづく不器用で、それは寝た振りも例外じゃなかった。

その拙さが愛しい半面、もどかしくも思う。

なんともまぁ身勝手な悩みだと密やかに苦笑して、抱き寄せた身体から不自然な力が抜けるのを待った。

つもりだったけれど。


「…悪い、起こした?」

ベッドを抜け出すタイミングはまだ少し早かったらしく。

リビングで灯した煙草が暗闇に浮かぶ頃、不意にやってきたアカイトが目元を擦った。

「…喉」

声がちょっと掠れてる。

「痛い?」

「違う、渇いた」

どちらにせよ原因は俺にある気がして、謝るとバツが悪そうな顔をする。

「なんでおまえが謝るんだよ」

それを聞き返す方が墓穴を掘るって、気づいてない子にわざわざ答えて怒らせることもない。

なに飲む?とソファから腰を上げて笑い返した。

「水でいい」

「ほら」

開けた冷蔵庫の灯りを浴びて差し出したペットボトルは暫し待っても受け取られずに。

「アカイト?」

振り返って眺めた隣の瞳はキッチンのシンクを見ていた。

「…向こうにも、置けばいいだろ」

「なにを?」

灰皿、と促された視線の先で預けた火種がぼんやり灯る。

「ああ…」

別に深い意味なんてない。
ベッドに匂いが移ると、嫌がるひとも居た。

寝室では吸わなくなった習慣がそのまま続いてただけなんだけど。

アカイトが欲しい応えはそういうことでは無いんだろう。

「ごめんな」

どこまでも間接的な要求に笑うしかなかった。

「だからなんで、謝るんだよ」

ひとりにして、と律儀に答えて機嫌を損ねる必要はやっぱり無い。

揉み消した煙草の代わりに再び点いてしまった別の火種をどうするか。

迎えに来てくれたらしい子に判断を委ねる為のキスをした。


end
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