呼称の交渉
「おい、おまえさぁ…」

徐に呼び掛けられて送った視線に自然と不満が宿ったらしく。

「…なんだよ」

眉を寄せたアカイトは不服と不安が混じったような顔をした。


「いや、こっちの台詞だろ」

なあに?と話の続きを促してはみるけれど。
形だけだって、アカイトにも分かったんだろう。

「なんだよ!文句があんなら言えよなっ」

拗ねたように口を尖らせて子供みたいな顔をする。

無意識…だとは思うけど。
こちらがそれに弱いと知っててやってるとしたら実に巧妙な手口だ。

まぁいいか…可愛いし。
なんて気持ちに、毎回させられてしまう、わけだが。

「あー…じゃあちょっとここに座りなさい」

「座ってんだろもう」

一度くらいは、ちゃんと伝えておこうと掴んだ手首を引き寄せて、部屋の壁へと視線を移した。

「あれは、なんでしょう」

「はあ?」

貼ってある印刷物をつられて眺めたアカイトが暫し呆けて。

「…ポスターだろ」

律儀に呟く答えを耳に今度はテレビを指さす。

「じゃあ、あの人は?」

殆どBGMだった天気の予報は今も流れてた。

「…キャスター?」

「そう!あれは?」

「…トースター」

「じゃあっ…俺は?」

勢いに任せてこちらが何を言わせたいのか、言いたいのか分かったらしく。

何度か瞬く瞳には、さっきまで確かにあった緊張感が微塵もない。

「…おまえ、ばかだな!」

どころか、大袈裟に笑い出したアカイトは珍しく屈託の無い顔をした。

「だっだからー!『おまえ』とかじゃなくて…」

「あははっ」

「聞いて!」

『マスター』だろ!と切に訴えてみたところで拍車を掛けただけらしく。

涙まで浮かべてる深紅の瞳は飴玉みたいに甘ったるい。

目の淵を拭ったアカイトが未だ笑った顔のまま、

「…バカマスター」

初めて言った呼称には予期せぬオプションがついてはいるけど。

「まぁ…いいか…」

可愛いし。

なんて気持ちで溢れてしまって結局俺も一緒に笑った。


end
募マス箱より「マスターを「マスター」と呼べない(おいとかお前ばっかり)なアカイトと何とかして呼ばせようとあれこれやってみる」マスターでした。
最終的には「なぁ、ばか」とかが定着して、悪化してるよな!?ってなれば良いとか思ってごめんなマスターがんばれマスター^O^
寄付して下さった貴方様へ捧げます。ありがとうございマスター!^^
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