interwinter
「いいな、似合ってる」
姿見の中で笑ったマスターがやっと満足そうな顔をした、その隣で。
最終的な決定権がどちらにあるのかを把握済みらしい店員は大袈裟に賛同した。
深緑よりは茶に近いカーキのジャケットはフードにファーがついていて。
暖房の入った店内で羽織ると暑いが、外に出てしまえば丁度いいのかもしれない。
昼と夜の気温差を多少嘗めてた俺の服装に、耐え切れなくなったのはマスターだから。
「じゃあ、これで」
着て行かれますか、と微笑んだ店員と会計に向かう背を眺めても罪悪感を抱く必要は無い筈だ。
俺が欲しいと言ったわけじゃない、けど。
値段を知るのは止めておいた。ようやくの決定を覆したくはない。
「その場凌ぎにどんだけ試着させる気だ」
店を出て直ぐ口をついた文句に、笑ったマスターがこちらの襟元を直して。
「その場凌ぎでも可愛い方がいいよ」
ついでのように頬を撫でた手が、あっさり離れて隣に降りてく様を見送る。
「…繋ぎたかった?」
「飯!どこで食うんだ!」
ごめん、と差し出された手のひらを叩き落として当初の目的を告げた。
頬に触れる冬の外気は粛々と張り詰めてはいるけれど。
厚手になった襟元が今は妙に暑い気もする。
おまえが近くに居る限り薄着なくらいで良いんじゃないか。
なんて自棄でも言える筈が無く。
身を焦がすような熱が引くのを大人しく待つしかなかった。
end
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