仮装を仮想
不意にぴたりと、会話も視線も止まるから。

それに促されて振り返った先には、随分とまぁ色っぽい悪魔。


「ちょっと…見すぎ」

苦々しく溜息をついた向かいで、悪びれる様子も無くマスターが笑った。

「すごいな、かわいい」

寒くないのかな?と的を射てんだか外れてるんだか分からない心配をする。

ああゆう顔が好きなのか、と眺めた女の人は確かに華のある顔立ちをしていて。

胸の大きく開いた黒地の衣装は丈も短く、頭には小さい角が2本と三又の尻尾までついてる。

わらわらと群がるちいさい子達に笑ってお菓子を配っていた。

『急に寒くなるから、着る物が無い』

と、計画性の欠片もないマスターらしい発言で、駅前のショッピングモールに訪れて早々。

この街の人々は頭でも沸いたのかと思ったけど、そうじゃないらしい。

マスターのだけでなく、何故か僕の服まで選んで、
一息がてら寄った喫茶店のテラスは、吹き抜けのイベントブースに近く。

悪魔の他にも魔女とか吸血鬼とか、コミカルとホラーを足して割ったような人達で賑わっていた。

どこからともなく、マーチングバンドの拙い演奏まで聞こえてくる。

「お菓子、欲しいなら行ってくれば」

あんまりにも、さっきのひとをマスターが見てるから、言った意図は皮肉だったのだけど。

「大人にはくれないよたぶん」

ミクオなら貰えるかもな、と返る暢気な声音にむかついた。

「もう、帰る」

「あー待って待って」

残ってたカフェオレを一息に飲んで立ち上がった傍から、腕を掴んできたマスターは焦った様子も無く。

残りの珈琲を飲み干すと荷物を片手に腰を上げた。

「どこで売ってんのかな?」

こちらの憤りがまるで伝わってないことよりも、唐突すぎる問いに毒気を抜かれる。

このひとはいつも脈絡が無い。

なにが、と上げた視線が届くより早く、繋ぎ直された手を引かれて店を出た。

「子供服にパジャマとか無いかな…」

「だから何が!」

頭上から降ってきた単語に苛立って上げた声に、振り返ったひとが視線を流す。

「あれ、ミクオのが似合うよ」

悪魔っていうより小悪魔って感じだけど、なんて返る笑顔は甘い以外に表現できない。

「…頭でも沸いたの」

「だから…ハロウィンって行事があってな」

ここに来て直ぐにした会話と同じ説明を繰り返すマスターを眺めて、繋いだ手を握り返す頃には。

その程度で喜ぶなら付き合ってやってもいいか、と思い始めていた。


end
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