マスタS
「気を強く持って下さいだって」
不意に起きて来た病人が食卓の椅子を引くのに笑って、カイト?と聞き返す。
「あの子は?何だって」
「おまえはただの風邪だから寝てれば治る」
「あはは」
「誰の受け売り?」
少しでも眠ったのが良かったのか、向かいで苦笑した顔色は、さっきと比べりゃマシに見えなくも無い。
けど、熱が上がるとしたら今夜だろう。とっとと寝かせるに越したことはなさそうだ。
「ふたりは?」
「寝てるよ」
あれだけ張り詰めたらそりゃ気疲れもすると思う。
「飯、食えそう?」
客間を覗きに行った奴が頷くのを見て、火を掛けた鍋に冷や飯を入れた。
まぁ、食えないって言っても食わせるんだが。
「でも俺お粥やだ」
「…言うと思って雑炊にしといた」
無理しない程度に全部食え、と出したそれに戻って来た奴が咳き込んで。
「何だその『冷酒の熱燗』」
矛盾してるって言いたいのを多少遠慮したらしい。
「しかしまぁほんとに風邪引かないよなおまえは…」
どころか、看病される側にしかならないのを気遣いだした。なんだこいつ誰だ。
ほんとに具合が悪いんだな、と変なところで実感する。
「おまえは…いつも通りでも良いと思うよ」
「何だ急に。何の話?」
やっぱり上手く頭が冴えてない返事に焦って。
「いいか、気をしっかり持て」
「いや、だから…それさっきカイトに聞いたって」
告げた言葉に呆れた顔した友人が、病は気からだろ?と笑った拍子に咽た。
end
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