マスカイと赤
「いい?」
何度も言うけど、と前置いたカイトのマスターが改まってこちらを向いたキッチンで。
「あいつは単なる風邪です」
シャツの袖を捲くるのを、ぼんやりと見送る内に、
「早く治す為に必要なのは、何でしょう」
「あっはい!薬?」
始まったクイズに遅れを取ってた。
「うん正解、でもその前に要るのは?」
俺の隣で手を挙げたカイトに笑った奴が俺を見る。
「…飯?」
「そう正解、米はどこだ」
「違うそこじゃねぇ、そっち」
カウンターの向こうにしゃがんで、シンク下の棚を漁りだした奴に炊飯器の下を指す。
「ああ、あった。卵は?ある?」
言われて開けた冷蔵庫から出したものを手渡した。
「さて、じゃあ飯を作るわけなんだけど」
その前にまだ足りないものがあります、と返るそれに漸く頭が冴えてくる。
「わかった、協力?」
「します!」
「あはは」
こいつひとりじゃ不安なのかと思ったけど、違うらしい。
聞いた傍から手を挙げたカイトと俺を眺めた奴は、惜しい、と笑った。
「病は気からって聞いたことない?」
ふたりにいつもの元気が無いと、あいつも元気が無くなって、食えるものも食えない、と続く。
「というわけで、これ持って」
励ましてきて、と渡されたスポーツドリンクのペットボトルを受け取る頃には、
「アカイト、早く!」
逆の手を掴んで来たカイトに寝室へ連れて行かれた。
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