マスカイと赤
様子見てくるから待ってて、と。
言われた通りアカイトと、リビングでじっと待つこと数分。
「大丈夫、ただの風邪だよあんなの」
寝てれば治る、と寝室から出てきたマスターが笑うから。
やっとちゃんと息が吐ける気がしたのは、俺だけじゃ無かった。
隣の身体からゆっくりと緊張が解けていくのが分かる。
「大丈夫だって風邪だって治るって」
「今聞いてただろ、俺も」
アカイトは顔を顰めたけど、思わず俺が握った手を少しだけ握り返してきたりするから。
なんだかよくわかんないものが込上げてきて視界がぼやけた。
「…なんでおまえが泣くんだよ」
少し笑ったアカイトに呆れた顔をされるけど。
「だっ、だって…」
怖かった。俺が怖かったんだから、アカイトはもっと怖かった。
うちに来たときからさっきまで、アカイトこそ泣きそうな顔してたくせに。我慢するから。
たぶんその分の何かが俺に移ったんじゃないかと思うんだけど。
上手く説明できない代わりに抱きつこうと、伸ばした腕は軽やかにかわされた。
「うう…っ今のはひどい、と思う、よ…!」
「あーっもーいいからあいつんとこ行け!」
バツが悪そうに目元を染めたアカイトに、指されたマスターが優しく笑って。
「ほら、おいで」
腕を広げてくれるから、ますます溢れてきたものがついに視界を遮った。
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